オフィーチェ

新しいワークスタイルを発信する【オフィーチェ】

三井デザインテック
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Future Articles

vol.17

Smart Work 2.0

NEC Group

コンピュータや通信機器、ITサービスを主軸に、海底から宇宙までの社会インフラ構築に高い実績を持つ日本電気株式会社(以下NEC)。1899年の創業以来、日本を代表する企業として発展してきた。そして創業120年を超えた今、社員の自律的な働き方を促し、働きがいを高める働き方大改革「Smart Work 2.0」が掲げられている。この100年に一度と言われる大改革の中、三井デザインテックは新時代のオフィス空間作りを担っている。

Text / Yasuko Hoashi

 NECが掲げている「Smart Work 2.0」は、社会背景の変化やNECグループの現状を踏まえ、PURPOSEの実現に向けて、社員の働きがいを追求し、社会価値提供への挑戦をサポートすることだ。
そのうえで、働き方という点では、ロケーションフリー。コミュニケーション・ハブ。イノベーション・ハブという3つのワークスタイルを掲げている。
 このNECの働き方大改革で空間デザインという役割を担う三井デザインテック。ワークスタイルデザイン室プロジェクト推進グループの中牧潤平氏がその経緯を語る。
 「NECグループの社員数は約11万人。このような日本を代表する大企業の100年に一度の働き方大改革のお手伝いをさせていただけるのは大変光栄なことです。きっかけは東京都・府中にある事業場の来客フロア改修でした。2019年春のことです。この改修へのデザイン提案が気に入ってもらえ、次々と新たな取り組みに携わらせてもらうことになりました」
 三井デザインテックの強みは、時代に先駆けてニューノーマル時代を体現するオフィスデザインを数多く手がけてきたことで培った知見。そして、コンサルティングからデザイン、施工まで一気通貫して手がけることができる体制だ。さらに、社員の専門性や個性を掛け合わせ新しいアイデアを生み出す“クロスオーバー”な取り組みを実践しているところも大きな強みだ。コンサルティング担当としてプロジェクトの初期段階からかかわるワークスタイルデザイン室 コンサルティンググループ 木下貴博氏は、府中事業場の空間デザインについて振り返る。
 「事業場に努める社員の働きやすさを叶え、社内メンバーだけでなく、社外の方との共創を促す仕掛けを意識した空間づくりが求められました。実は府中事業場のプロジェクトが始まる前、NECの責任者の方から『オフィス空間のトレンドを教えてほしい』と言われ、アメリカのサンフランシスコ、ニューヨークに最新のオフィスデザインを一緒に見に行ったんです。アメリカでこれからのオフィスの在り方を感じていただき、三井デザインテックとして何ができるかもお話しすることができました」
 府中事業場の空間デザインを手がけたのはクリエイティブデザインセンター チーフデザイナーの堤知佳氏。30棟余りのオフィス棟が建ち並ぶ広大な府中事業場の11号館、事業場全般の来客フロアにあたる1〜2階を担当した。
 「府中事業場の来客フロアを社内外の共創空間にしようと思いました。社外のお客様との出会い、社内の仲間やアイデアとの出会い。ここからコミュニケーションもイノベーションも始まっていく、そんな空間を目指しました。まず空間を細かく分けていた仕切りを取り払い、50メートルほどの広く長いワンフロアに再構成。入り口から歩みを進めるほどに、まるで未来空間に向かっていくように感じるデザインで、その途中にはNECの歴代製品と企業ヒストリーを展示。
 ショールームとしての使用はもちろん、お客様とのコミュニケーションスペースとして、また、NECの社員として一人ひとりがアイデンティティを高められる場となることも意識しました」

ある1点から見上げるとNECと見える天井照明(府中事業場)
眺めの良さを生かしたスペース(新木場)
食と仕事の場が違和感なく融合(本社/食堂)
コミュニケーションの場になるソファ席(本社/食堂)

 2019年春から手掛けてきた府中事業場の来客フロア改修デザインが評価され、2020年の秋以降、次々と新しいプロジェクトが動き出す。NEC本社の社員食堂もその一つだ。デザインを手掛けたのはクリエイティブデザインセンター チーフデザイナーの木野田千晴氏。
 「単なる新しい食堂ではなく、飲食ができる働く場という、新領域の空間をデザインしました。食事のトレイの横にパソコンも置けるようにテーブルサイズを大きめにして電源も確保。いろいろな働くシーンを想定し、ソファやハイチェアなど、さまざまなタイプの座席を散りばめました。記者会見やライブビューイングといったイベント・メディア対応にも活用され、本社の中心的役割をしっかりと果たしていて嬉しく思います」
 プロジェクトを成功に導いたポイントは、NEC関係者と事前に行ったワークショップだった。
 「新しい食堂のコンセプトをワークショップでFIELD(フィールド)と決めました。これは今後、全国のNECの拠点に展開されていくことになった食を伴うI-HUB(イノベーションハブ)のブランド名です。 食事をしても仕事をしてもミーティングをしてもいい。そんな自由な空間にしようとみんなで決めたのです。だから、完成までの道のりの中で問題が起こっても、ワークショップでの結論に立ち戻って、最適な解決策を模索できました(木野田)」
 NECと三井デザインテックの橋渡し役として、時には1つのプロジェクトで複数社・20〜30名が参加する打ち合わせを仕切ることにもなる中牧氏は、両社の良好な関係性を継続するために、たびたびチームに語りかけたことがあるという。
 「ありがたいのは、NECの皆さんが三井デザインテックのチームを一業者としてではなく、『Smart Work 2.0』を実現するためのパートナーだと思ってくれていることです。だから僕も、社内のチームには『このチームには御用聞きの機能は求められていない。しっかりと提案のできるチームになろう』と言ってきました」
 本社の社員食堂改修と同時期に動き出していたのは、福岡市天神のプロジェクト。福岡市の再開発促進事業「天神ビッグバン」第1号として建設された「天神ビジネスセンター」内に、九州のNECグループ7社を移転・統合しようというものだった。上層3フロアのオフィス空間をデザインするにあたり、NEC担当者から言われたミッションは、壁を取り払ってほしいということ。壁を取り払う、つまり7社が“コミュニケーション”を深め、“イノベーション”を育む場となることを期待された。福岡のプロジェクトでも空間デザインを担当した堤氏は言う。
 「私たち三井デザインテックも本社移転を機に2社が統合しました。その経験値を生かし、NORD(ノード)というコンセプトを提案しました。ノードとは節点や接合点を意味します。7社が自然と接点を持てるようなノードポイントをたくさんデザインしました。また4つの会議室はそれぞれテーマを変えてデザイン。社員の皆さんや地元のアーティストに協力してもらってオリジナルアートを制作しました」
 2021年4月から始まったのはNECグループの中でソフトウェアやシステムサービスを担うNECソリューションイノベータ株式会社のオフィス改修だ。社員数約4500人。東京・新木場に本社ビルを構える同社は隣接するセンタービルにも多くの社員が働いていたが、ここ数年でリモートワークが進んだため、センタービルの使用をやめオフィス機能を本社に集約させることになったのだ。木下氏は語る。
 「どんな機能があればオフィスに行きたいか、どんなオフィスであることがエンゲージメントを高めることにつながるか、システムエンジニアとしてリモートで働くことが多い社員の皆さんが抱えていた不満や不安を出してもらい、その課題解決のために何が必要か、セッションを重ねました。6フロアの改修で現在3フロアが終わったところですが、社員の皆さんの間ではマインドチェンジが始まり、働き方が変わり始めているそうです。NECは本社も事業場もグループ会社も規模が大きく、日本を代表する企業であると実感します。三井デザインテックとしてはNECの皆さんが気持ちよく仕事ができるオフィス空間を提案することで、今後の発展に貢献できれば嬉しいです」
 オフィス空間が変わればそこで働く人たちのモチベーションが変わり、会社へのエンゲージメントも高まる。コミュニケーションを大切に考えるオフィス空間からは、思いがけない接点が生まれ、その企業を大きく発展させるイノベーションが始まることもあるだろう。何よりも、気持ちよく社員が働いている企業にはいい人材が集まってくる。それだけオフィス空間の役割は大きいのだ。三井デザインテックは最適なオフィス空間を提案する力で、これからも働く人たちと企業の未来を支えていく。

未来的な中に有機的デザインを配置(府中事業場)
緑を活かした空間が広がる17階フロア(福岡/天神)
会議室壁面のアートは社員1人1人がピースを作成(福岡/天神)
曲線のグリーンベンチで山をイメージした19階フロア(福岡/天神)

New Relationships

vol.17

世界の最新情報からオフィス・トレンドを探る

ユーザーと企業をつなぐ『UXデザイン』

UX (User Experience/ユーザーエクスペリエンス)への注目度が、年々上がっている。UXとは「ユーザー体験」のこと。これからのサービスやプロダクトに必要な視点であると言われている。ではUXをデザインする、つまりユーザー体験をデザインするUXデザイン(User Experience Design)には、どんな考え方や取り組みが必要なのだろうか? そしてユーザーと企業のこれからの関係性とは?
UX研究の第一人者、千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科 安藤昌也教授にお話をうかがった。

武部雅仁氏(三井デザインテック/以下武部):最近の消費動向をみると、モノ消費、コト消費からトキ消費に移り変わってきたように感じます。ユーザーはモノやサービスそのものではなく、そこから得られる体験価値を重視するようになってきました。この背景にあるものは何でしょうか?

安藤昌也氏(千葉工業大学教授/以下安藤):ユーザーの体験価値を大切にすべきという考え方は、実は20年以上も前からあったものです。1999年に発行された「経験経済(B.J.パイン・J.H.ギルモア共著)」の中で、経済発展はユーザー体験を重視した「経験経済」に移り変わっていくのは必然であると述べられています。モノやサービスは最初は差別化されていても次第に一般化し、コモディティ化していきます。そうなるとそこから先は、「これを使ってどんな体験ができれば嬉しいか」に興味が移っていきます。例えば、服装を考えてみるとわかりやすいかも知れません。一昔前は私たちは個性を競い合って服を選んでいましたし、時計などの装飾品もブランドを気にする人が多かったと思います。しかし現在は、みんな同じような服装で同じような物を身につけています。つまり技術の進化や競争が激しくなると価格競争になり、あらゆるモノやサービスが徐々にコモディティ化してしまい、差別化が難しくなってしまったのです。では、これからの企業はどうやってユーザーにアプローチすればいいのか? まさに「体験」が重要です。体験を通してユーザーに感動を与えることができれば、ユーザーは対価を支払います。このような経済活動を「経験経済」と言うのです。そしてこの本の中では経験経済の先にあるのは「変身経済(Transformation Economy)」であると書かれていています。体験するユーザーはいわばステージに立つ演者であり、モノやサービスを利用することによって、体験を味わうだけでなく、自分が変わっていくことに喜びを感じ、なりたい自分になっていく。これが「経験経済」の先にある「変身経済」の価値基準です。まさに今、世界はそこに向かっています。

武部:20年以上も前からそんな考え方があったんですね。一方で、量産時代の経験を捨て切れない企業もまだ多いように感じています。いいものを作るだけはなかなか売れない時代になっていると思うのですが、どうしたら企業の意識を変えていけるでしょうか?

安藤:いいものを作ることは否定しませんが、それをどうやって伝えていくかが重要です。TVも見ない、新聞も読まない人が増えた今、インフルエンサーを使ってSNSで発信することを考える企業は多い。それはつまりユーザーに体験をしゃべってもらっていることなんですね。体験価値がなくては、モノやサービスは見向きもされない時代。モノやサービスを作る人は、自分自身を振り返ってみると良くわかると思いますよ。

武部:なるほど。まず、作り手が体験価値を認識することが必要ですね。そしてUX(ユーザー体験)を考慮してデザインしていくことが大切なのですね。

安藤:そうですね。UXを考慮してモノやサービスをデザインすること、つまりUXデザイン(UXD)が今、企業に求められています。従来のデザインとUXデザインとでは何が違うかというと、UXデザインは時間軸でとらえて考える点です。例えば製品をデザインする場合、単なる形のデザインではなく、購入前、購入後、使用中にトラブルがあった場合、そして廃棄まで、製品のライフサイクル全体をみてデザインするのがUXデザインなのです。

武部:時間軸に沿って、ユーザーにどういう体験をしてもらいたいかということをデザインするということですね。

安藤:そうです。また、UXデザインをする場合はユーザーをパターンとしてとらえる必要があります。あるタイプの人がどういう体験をするとどのような満足感を得られるか、どのような心理的変化があるか、これをリサーチし、ペルソナ(ユーザー像)を設定することが重要です。「同じような状況にある人は同じような受け止め方をする」という前提に立っていることがUXデザインの基本的なスタンスです。人が類似な行動を取る場合はどんな状況なのかをリサーチし、パターンを調べていくのです。

武部:企業がモノやサービスをデザインする際、ユーザーにアンケートを取ることがあります。するとどうしても大多数の人が支持している意見を採用することが多くなります。

安藤:UXデザインは「人の行動はパターンになっている」ということが前提ですから、そのパターンを見つける必要があります。しかしそれはアンケートだけではなかなか難しい。観察することが大事だし、時には対象となる人たちにインタビューしてみることも大切です。そして分析し、パターンを見出していくのです。パターンを見出す際は汎用性のある多数派の「一般解」だけに注目すべきではなく、まだ一般的ではない「個別解」にも着目すべきでしょう。「個別解」であってもそれが有意義であれば「一般解」に昇華させていく。それこそデザイナーの腕の見せどころです。

武部:企業は過去の事例や消費者の意見にとらわれがちですが、新しいものを生み出していく上で「こういうのが欲しかった!」とユーザーに思ってもらえたら勝ち。それを考えたら「個別解」を「一般解」にしていくことは、どんな仕事にも大切かも知れないですね。

安藤:人はパターンに合わせることができ、パターンに合わせる人が増えていくことで「個別解」だったものが「一般解」となっていくのです。その発想がUXデザインでは重要です。ユーザーが今欲しいものをデザインするだけでは、UXデザインとは言い難い。パターンに属する人たち(ペルソナ)が幸せな体験をできるように“願う”ことが、UX デザインの本質なのです。“願う”とは単純な“提案”とは違います。表に出てきていない潜在的なユーザーの想いも含めて、デザイナーがユーザーの幸せを願い、デザインする。UXデザインとはそういうものです。

千葉工業大学
先進工学部知能メディア工学科 教授
安藤 昌也

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。 NTTデータ通信(現、NTTデータ)、経営コンサルティング会社取締役、早稲田大学、国立情報学 研究所、産業技術大学院大学など経て、2011年千 葉工業大学工学部准教授、2015年教授。2016年 より現職。博士(学術) .専門は、人間中心デザイン。UX(ユーザー体験) の研究者。人間工学ISOの国内対策委員等も務める。

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