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New Office is starting.
2021年7月、三井デザインテックは「銀座6丁目ーSQUARE」に本社オフィスを移転した。前年に三井不動産リフォームと統合したこともあり、住宅、オフィス、ホテル、商業施設など、さまざまな領域で培ったそれぞれの知見や手法を他の空間づくりにも取り入れ、横断的な発想で価値を創造する企業として生まれ変わったのだ。新たな オフィスはこれまでの常識を超えるWell-Being(ウェルビーイング)な要素がふんだんにあり、自由な発想を促してくれる空間になっている。また業務に合わせて働く場所を選べるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を積極的に導入しイノベーションの創出に取り組んでいるという。ニューノーマル時代のオフィスはどうあるべきか、これからの働き方はどう変わるべきか。新本社オフィスには、三井デザインテックの社員一人一人がこれらの疑問に真正面から向き合い、考え導き出した最先端の‘‘答え’'が凝縮されている。
一人一人の個性や専門性を掛け合わせるCROSSOVER(クロスオーバー)をコンセプトに最先端のABWへの取り組みを進め、社内外の組織の垣根を超えた新しい働き方を実現した三井ザインテックの新本社オフィス。エンゲイジメントやウェルビーイングを促す心地いいオフィス空間としても注目を集めている。ABWに関しては、三井デザインテックは2014年よりすでにその研究を始めており、今回の本社移転を期に、ABWへの取り組みが一気に加速したと言える。昨年より続くコロナ禍においてテレワークが広く定着し、ABWに興味をもつ企業が増えているが、いち早く取り組んできた三井デザインテックだからこそ、ニューノーマル時代の働き方の見本となるような斬新なオフィスデザインを構築できたとも言えるだろう。
今回の本社移転に関して統括的な役割を受け持ち、同時にABWを積極的に浸透させてきたスペースデザイン事業本部木下貴博氏は次のように語る。
「新本社オフィスは、普段、我々がクライアントに提案している働き方を変えていく為の環境づくりを自社におこない形にしました。デザイン、設計、運用、情報発信など、すべてにおいて自分事として社員一人一人が自ら考え、構築していったのです。自社のサー ピ スを自社で体験する、まさに貴重な経験でした。自分たちの強みを改めて知ることができ、自信を深めた社員も多いと思います。新本社オフィスにはコンセプトであるクロスオーバーを体現するさまざまな仕掛けがデザインされていますが、クロスオーバーな働き方やイノベーションを本当の意味で達成するのはこれからだと僕は思っています。今やっと土台ができたのです。ただ本社移転をきっかけに、三井デザインテックが掲げるクロスオーバーとはこういうことか、と社員全員が感じることはできたでしょう。これは自分たちの会社が進む方向性を理解しエンゲイジメントを高めることにつながっていると思います」
業務に合わせて最適な場所(オフィス、自宅、シェアオフィスなど)を柔軟に選べる働き方(ABW)に早くから取り組んできた三井デザインテックだが、本社移転後もテレワークを活用した働き方が継続することを前提にして、これまでのABWの研究成果をデザインに積極的に取り入れた。それは完全フリーアドレス制などの単純なものではなく、スタッフ・各部事務系部門など周囲から相談の多い部門・ 職種専用の席を設置し、その席を中心として形成される事業本部ごとの緩やかなエリアを設定するという柔軟性のあるデザインだった。加えて定期的に事業本部ごとのエリアはシャッフルを行う。これは個人・ チームそれぞれの生産性向上とコミュニティ形成の両方を意識した最も効果的な形だ。新本社オフィスの空間デザインを担当したクリエイティブデザインセンター 藤本裕助氏が、デザインヘのこだわりを教えてくれた。
「テレワークが広がり、今、オフィスでの偶発的な出会いや交流の重要性が再認識されています。そこで三井デザインテックの新本社オフィスでは、多様な人材が集うことで生まれる“協創”や“エンゲイジメント’’の 向上を重視。コミュニティエリアを中心としたオフィス空間を創りました。ABWの浸透で一人一人の生産性は個々に任せるとしても、企業の文化、社員同士の交流はリアルでないと伝わらないことがある。オフィスは仲間との交流、出会いの中心、交差点であるべきだと考えたのです。これからの企業はどうあるべきか、ということをよく考え、軸にして、空間デザインしました。その上で僕がこだわりたかったのは、オフィスは働く場所であるということ。遊び心のあるデザインやカフェなどの交流の活性や休憩するための機能に目が行きがちですが、オフィスはオフィス。どの場所でも、どの景色でも、きちんと働ける空間であるべきだと考えました。だからカフェでもSORANIWAと呼ばれる屋外のテラスでも、リラックスしながらもきちんと仕事ができるデザインになっています。こういったオフィスならではのデザインはテクニックが必要で苦労もありましたが、新本社のデザインで培った新しいオフィスのあり方を新時代のオフィス作りを検討するお客様のために役立てていきたいですね」
藤本氏と同様にクリエイテイプデザインセンターに属し、 1階の来客エリア「Crossover Design salon」のデザインチ ームリーダーでもあった本田夏菜氏は、デザインチームのメンバーそれぞれの個性や意見を柔軟に取り入れることで、結果的に既視感のない空間を作り上げることができたと分析する。
「新本社オフィスのデザインは、オフィスデザインを担当するメンバーだけが手がけたわけではありません。三井デザインテックはオフィスデザイン以外にもホテルや住宅をはじめさまざまな業態のデザインも手がけていますが、そのさまざまな知見を生かし、あえてオフィス担当以外のデザイナーにも参加してもらいました。これは、異なったアイデアをデザイン面でも交差させ、コンセプトであるクロスオーバーによるイノベーション創出を狙ったという意味でもありました。結果、ホテルメンバーのホスピタリティデザインとオフィスメンバーのコミュニケーションデザインの知見を掛け合わせたフュージョン空間として完成し、どちらか一方の知見だけでは生まれなかったと思います。例えば、1階の来客エリアでは使うマテリアルや家具配置の距離感、家具自体もサロンのようにゆったりとおかけ頂ける家具を使用するなど従来のオフィス来客エリアよりもホテルラウンジライクな設えにしました。おもてなしの空間を創出しながら、同時に全席働ける状況は完備しています。同じく1階のカフェではアイスプレイクがてらお客様と一緒にドリンクを選定し、寛いでいただきながら当社との協創に参加いただく、そして新しい価値創出につなげていけたらと。また協創や価値創出への取り組みの一環として、様々な有識者やデザイナーをお招きしクリエイティブラウンジというイベントの開催も行っています。三井デザインテックに来社されるお客様はオフィス関係、ホテル関係、そしてリフォームを希望する個人のお客様までいらっしゃいます。1階はそのすべての方々が最初に訪れるエリアとして、私たちの提案に可能性を感じ、期待が高まる空間になるようデザインしました」
意見を出し合ったのはデザイナーだけではない。設計、及びプランニングを担当したクリエイティブデザインセンター 平田裕亮氏は、各部署からの意見を取りまとめることが大変だったと振り返る。
「働き方のコンサルをする側の当たり前、デザイナーとしての当たり前、設計者の当たり前など、それぞれの立場ごとに当たり前、つまり常識があります。新本社オフィスを斬新で素晴らしいものにするために意見をぶつけ合うことは大切ですが、コスト管理や運用面も含め、それらを取りまとめて最終的なプランに落とし込んでいく必要がありました。まさに僕はその調整役として奔走しましたが、やりがいはありましたね。各人の‘‘当たり前”“常識"の先に、まったく新しい三井デザインテックの‘‘当たり前”‘‘常識"が作られていったプロセスは、とても大切だったと思います」
デザインや設計にこれまでとは違う新しいアイデアが投入されると、そのアイデアをスムースに機能させていくため、運用面にも新しさが求められる。オフィスのあり方を検討している企業にとっても、デザインや設計以上に気になるのは運用だろう。運用がスムースにいかなければ、斬新なデザインもたちまち色褪せたものとなるからだ。総務人事部桐山徹治氏は、本社移転を運用面から支えた一人だ。
「本社移転後の運用は、新たな働き方とそれを具現化する空間デザインをしっかりと理解することから始まりました。デザイナーや設計者が考えるものを現実に落とし込んでいく作業が必要であり、ABWに対応したツ ールの導入、デジタルサイネージの設置、会議室予約システム構築など、一つ一つ形にしていきました。備品設置や配線計画まで細かい裏方作業も山ほどありましたが、移転後に混乱なくスムースに仕事をおこなえるようにオフィス使用に関するマニュアルを作り、社員全員に周知していきました」
マニュアル共有システムを活用した運用の周知もあって、移転直後に大きな混乱はなかった。大規模オフィスの移転には混乱やストレスがつきものであることを考えると、これはかなり珍しいケースだとも言えるが、新オフィスのスムースな使用を可能にしたのは、実はもう一つ理由がある。三井デザインテックでは移転の数ヶ月前から統合推進室とワークスタイル戦略グループが連携して浸透プログラムを実施。具体的には動画を用いた情報発信やワークショップのトレーニングに度々取り組んできた。新オフィスに関するワ ークショップも度々実施してきた。これらの取り組みが社員全員に本社移転を自分事化させ、理解を深め、新オフィスヘのスムースな移転を可能にしたのだ。統合推進室で情報発信を担当してきた経営企画部桑田亜耶子氏は、ワークショップを重ねるごとに社員の意識が変わってきたと言う。
「2社の統合と本社の移転。会社が大きな変化に面しているからこそ、その道のりを詳細に情報発信することが大切だと考えました。情報をオープンにすることで不安を払拭し、社員全員に‘’本社移転でどう変わるのか、そしてどう変わりたいのか”を自分事化してもらいたかったのです。忙しい仕事の合間を縫って参加するワ ークショップは社員にとっては負担だったかもしれませんが、ワークショップに参加することで新本社オフィスヘの理解が深まっていったように思います」
社員全員がそれぞれの立場で形にしていった三井デザインテックの新本社オフィス。移転から数ヶ月が過ぎた今、どんな働き方が始まり、どんなイノベーションが生まれているのだろうか?そして社員はどんなウェルビーイングを体験しているのだろうか?ちなみにウェルビーイングとは直訳すると心身と社会的な健康、または幸せのこと。三井デザインテックが考えるウェルビーイングなオフィスとは社員が心身ともに充実できるように‘‘遊びゴコロ"と‘‘伝統と革新’’を凝らした空間であり、リアルなオフィスでしか得られない快適な体験や自由な発想を促す働く場所を意味する。ウェルビーイングという言葉は職場環境や働き方を見直す一つの指標として最近注目を集めているが、単一的で瞬間的な幸せを意味するハピネスとは異なり、持続可能で多面的な幸せを意味するウェルビーイングこそ、三井デザインテックが目指すものだと考えている。
「新本社オフィスの中にはウェルビーイングを感じられる場所はたくさんあります。僕がもっとも気に入っているのは 3階のSUN ROOM(サンルーム)ですね。たくさんのグリーンに囲まれた空間で、自然の明かりのサイクルを再現したサーカディアンリズムの原理を応用した照明が導入されています。インドアとアウトドアを融合したようなまさにウエルネスな空間。効率的に仕事を行う上で最適な緑視率(目に映る草や木などの緑量の割合)となるよう設計されています。(木下)」
SUN ROOMは屋外テラス「SORANIWA(空庭)」にもつながっており、室内オフィスだけでは体験できない環境で働くことも可能。今後はテラスに設置した菜園で種まきや苗植えなどを実施予定とか。野菜の収穫など、社員参加型のイペントをおこなっていくことになっている。このようなソフト面からも社員のウェルビーイングを高めていく仕掛けは、オフィスの空間デザインというハード面と組み合わせることで大きな相乗効果を生み出していくだろう。
3階のカフェスペース「D’s CAFE」も大切なスペースであると語るのは藤本氏。
「新本社オフィスの社内用のカフェ機能はあえてここだけです。社内交流に繋がる機能を3階北側に集約させることで、ランチや休憩時にみんながここにやってくる。そうすれば偶発的に仲間に出会う確率も上がり、コミュニケ ーションを深めるきっかけになっていきます。そもそも新本社オフィスは、働き方に合わせて仕事をする場所を選べるようにデザインしています。大きく分けると1階はプランド発信となる来客工リア。2階は執務エリア、3階南北のエリアは社内・社外、それぞれのコラボレーションエリアです。同じ2階でも、作業に集中したい時は集中作業用のエリアに、WEB会議をしたい時はWEBブースに移動することもできます。 3階のSUN ROOMでは緑に囲まれてリラックスしながら仕事ができますし、“今日はアウトドアな気分だな”という日はSORANIWAを活用できます。仕事内容や気分に応じて働く場所を選べるということは、自由な発想やクリエイテイビティを向上させるのに効果を発揮していると思います」
エリアに合わせて随所に機能が隠れているそうで、社員全員がオフィスを使いながらその快適さを日々実感しているという。ただ、大きく働き方が変化する本社移転は不安を感じる社員も少なからずいた。
「少しずつですが、社員も使い慣れたタイプの席から離れ社内のあちこちのエリアを試していっているようです。新本社オフィスは年齢や肩書きではなくユーザビリティを第一にデザインしています。だから見慣れた席から離れて、この新オフィスが提案する新しい働き方を自ら体験していくことが大事。そうすることで体験がエビデンスとなり、僕たちが提案したい新しい働き方をお客さんに自信を持って提案することができる!すでに僕たちはそのことに気づいていますし、さらにお客様に来社いただくことでこの快適さを体験しもらい、図面やCGでは伝えきれない新しい働き方のデザインを実感してもらいたいと思っています(平田)」
大きく働き方が変化する本社移転は不安を感じる社員も少なからずいた。三井デザインテックの新本社オフィスは新しい働き方もそれを具現化するデザインも、そしてウェルビーイングの実現も、すべてを可能にした空間が広がっている。社員にとっては、最高のパフォ ーマンスを発揮できる環境が整ったといえるだろう。ニューノーマル時代の日本の新しい働き方、オフィスのあり方を先導する提案が、ここから発信されることを期待したい。新本社オフィスには三井デザインテックの可能性が満ちている。