オフィーチェ

新しいワークスタイルを発信する【オフィーチェ】

三井デザインテック
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Future Articles

vol.16

New Office is starting.

2021年7月、三井デザインテックは「銀座6丁目ーSQUARE」に本社オフィスを移転した。前年に三井不動産リフォームと統合したこともあり、住宅、オフィス、ホテル、商業施設など、さまざまな領域で培ったそれぞれの知見や手法を他の空間づくりにも取り入れ、横断的な発想で価値を創造する企業として生まれ変わったのだ。新たな オフィスはこれまでの常識を超えるWell-Being(ウェルビーイング)な要素がふんだんにあり、自由な発想を促してくれる空間になっている。また業務に合わせて働く場所を選べるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を積極的に導入しイノベーションの創出に取り組んでいるという。ニューノーマル時代のオフィスはどうあるべきか、これからの働き方はどう変わるべきか。新本社オフィスには、三井デザインテックの社員一人一人がこれらの疑問に真正面から向き合い、考え導き出した最先端の‘‘答え’'が凝縮されている。

 一人一人の個性や専門性を掛け合わせるCROSSOVER(クロスオーバー)をコンセプトに最先端のABWへの取り組みを進め、社内外の組織の垣根を超えた新しい働き方を実現した三井ザインテックの新本社オフィス。エンゲイジメントやウェルビーイングを促す心地いいオフィス空間としても注目を集めている。ABWに関しては、三井デザインテックは2014年よりすでにその研究を始めており、今回の本社移転を期に、ABWへの取り組みが一気に加速したと言える。昨年より続くコロナ禍においてテレワークが広く定着し、ABWに興味をもつ企業が増えているが、いち早く取り組んできた三井デザインテックだからこそ、ニューノーマル時代の働き方の見本となるような斬新なオフィスデザインを構築できたとも言えるだろう。

 今回の本社移転に関して統括的な役割を受け持ち、同時にABWを積極的に浸透させてきたスペースデザイン事業本部木下貴博氏は次のように語る。
 「新本社オフィスは、普段、我々がクライアントに提案している働き方を変えていく為の環境づくりを自社におこない形にしました。デザイン、設計、運用、情報発信など、すべてにおいて自分事として社員一人一人が自ら考え、構築していったのです。自社のサー ピ スを自社で体験する、まさに貴重な経験でした。自分たちの強みを改めて知ることができ、自信を深めた社員も多いと思います。新本社オフィスにはコンセプトであるクロスオーバーを体現するさまざまな仕掛けがデザインされていますが、クロスオーバーな働き方やイノベーションを本当の意味で達成するのはこれからだと僕は思っています。今やっと土台ができたのです。ただ本社移転をきっかけに、三井デザインテックが掲げるクロスオーバーとはこういうことか、と社員全員が感じることはできたでしょう。これは自分たちの会社が進む方向性を理解しエンゲイジメントを高めることにつながっていると思います」
 業務に合わせて最適な場所(オフィス、自宅、シェアオフィスなど)を柔軟に選べる働き方(ABW)に早くから取り組んできた三井デザインテックだが、本社移転後もテレワークを活用した働き方が継続することを前提にして、これまでのABWの研究成果をデザインに積極的に取り入れた。それは完全フリーアドレス制などの単純なものではなく、スタッフ・各部事務系部門など周囲から相談の多い部門・ 職種専用の席を設置し、その席を中心として形成される事業本部ごとの緩やかなエリアを設定するという柔軟性のあるデザインだった。加えて定期的に事業本部ごとのエリアはシャッフルを行う。これは個人・ チームそれぞれの生産性向上とコミュニティ形成の両方を意識した最も効果的な形だ。新本社オフィスの空間デザインを担当したクリエイティブデザインセンター 藤本裕助氏が、デザインヘのこだわりを教えてくれた。
「テレワークが広がり、今、オフィスでの偶発的な出会いや交流の重要性が再認識されています。そこで三井デザインテックの新本社オフィスでは、多様な人材が集うことで生まれる“協創”や“エンゲイジメント’’の 向上を重視。コミュニティエリアを中心としたオフィス空間を創りました。ABWの浸透で一人一人の生産性は個々に任せるとしても、企業の文化、社員同士の交流はリアルでないと伝わらないことがある。オフィスは仲間との交流、出会いの中心、交差点であるべきだと考えたのです。これからの企業はどうあるべきか、ということをよく考え、軸にして、空間デザインしました。その上で僕がこだわりたかったのは、オフィスは働く場所であるということ。遊び心のあるデザインやカフェなどの交流の活性や休憩するための機能に目が行きがちですが、オフィスはオフィス。どの場所でも、どの景色でも、きちんと働ける空間であるべきだと考えました。だからカフェでもSORANIWAと呼ばれる屋外のテラスでも、リラックスしながらもきちんと仕事ができるデザインになっています。こういったオフィスならではのデザインはテクニックが必要で苦労もありましたが、新本社のデザインで培った新しいオフィスのあり方を新時代のオフィス作りを検討するお客様のために役立てていきたいですね」
 藤本氏と同様にクリエイテイプデザインセンターに属し、 1階の来客エリア「Crossover Design salon」のデザインチ ームリーダーでもあった本田夏菜氏は、デザインチームのメンバーそれぞれの個性や意見を柔軟に取り入れることで、結果的に既視感のない空間を作り上げることができたと分析する。
 「新本社オフィスのデザインは、オフィスデザインを担当するメンバーだけが手がけたわけではありません。三井デザインテックはオフィスデザイン以外にもホテルや住宅をはじめさまざまな業態のデザインも手がけていますが、そのさまざまな知見を生かし、あえてオフィス担当以外のデザイナーにも参加してもらいました。これは、異なったアイデアをデザイン面でも交差させ、コンセプトであるクロスオーバーによるイノベーション創出を狙ったという意味でもありました。結果、ホテルメンバーのホスピタリティデザインとオフィスメンバーのコミュニケーションデザインの知見を掛け合わせたフュージョン空間として完成し、どちらか一方の知見だけでは生まれなかったと思います。例えば、1階の来客エリアでは使うマテリアルや家具配置の距離感、家具自体もサロンのようにゆったりとおかけ頂ける家具を使用するなど従来のオフィス来客エリアよりもホテルラウンジライクな設えにしました。おもてなしの空間を創出しながら、同時に全席働ける状況は完備しています。同じく1階のカフェではアイスプレイクがてらお客様と一緒にドリンクを選定し、寛いでいただきながら当社との協創に参加いただく、そして新しい価値創出につなげていけたらと。また協創や価値創出への取り組みの一環として、様々な有識者やデザイナーをお招きしクリエイティブラウンジというイベントの開催も行っています。三井デザインテックに来社されるお客様はオフィス関係、ホテル関係、そしてリフォームを希望する個人のお客様までいらっしゃいます。1階はそのすべての方々が最初に訪れるエリアとして、私たちの提案に可能性を感じ、期待が高まる空間になるようデザインしました」

1階受付スペース。デジタルツールを使って呼び出しをおこなえる。
1階入り口を入るとすぐにカフェコーナーがある。凹凸のある左官壁には位置情報アプリと連動し社員と来訪者の在館状況に応じて変化する四季の自然風景を投影。
事業本部ごとに緩やかに集まることができるエリア。奥にはプロジェクトごとに集まるスペースも。
椅子の高さや角度がそれぞれに違うWeb会議用スペース。「ミナ ペルホネン」によるファブリックボードを設置。

 意見を出し合ったのはデザイナーだけではない。設計、及びプランニングを担当したクリエイティブデザインセンター 平田裕亮氏は、各部署からの意見を取りまとめることが大変だったと振り返る。
 「働き方のコンサルをする側の当たり前、デザイナーとしての当たり前、設計者の当たり前など、それぞれの立場ごとに当たり前、つまり常識があります。新本社オフィスを斬新で素晴らしいものにするために意見をぶつけ合うことは大切ですが、コスト管理や運用面も含め、それらを取りまとめて最終的なプランに落とし込んでいく必要がありました。まさに僕はその調整役として奔走しましたが、やりがいはありましたね。各人の‘‘当たり前”“常識"の先に、まったく新しい三井デザインテックの‘‘当たり前”‘‘常識"が作られていったプロセスは、とても大切だったと思います」
 デザインや設計にこれまでとは違う新しいアイデアが投入されると、そのアイデアをスムースに機能させていくため、運用面にも新しさが求められる。オフィスのあり方を検討している企業にとっても、デザインや設計以上に気になるのは運用だろう。運用がスムースにいかなければ、斬新なデザインもたちまち色褪せたものとなるからだ。総務人事部桐山徹治氏は、本社移転を運用面から支えた一人だ。
 「本社移転後の運用は、新たな働き方とそれを具現化する空間デザインをしっかりと理解することから始まりました。デザイナーや設計者が考えるものを現実に落とし込んでいく作業が必要であり、ABWに対応したツ ールの導入、デジタルサイネージの設置、会議室予約システム構築など、一つ一つ形にしていきました。備品設置や配線計画まで細かい裏方作業も山ほどありましたが、移転後に混乱なくスムースに仕事をおこなえるようにオフィス使用に関するマニュアルを作り、社員全員に周知していきました」
 マニュアル共有システムを活用した運用の周知もあって、移転直後に大きな混乱はなかった。大規模オフィスの移転には混乱やストレスがつきものであることを考えると、これはかなり珍しいケースだとも言えるが、新オフィスのスムースな使用を可能にしたのは、実はもう一つ理由がある。三井デザインテックでは移転の数ヶ月前から統合推進室とワークスタイル戦略グループが連携して浸透プログラムを実施。具体的には動画を用いた情報発信やワークショップのトレーニングに度々取り組んできた。新オフィスに関するワ ークショップも度々実施してきた。これらの取り組みが社員全員に本社移転を自分事化させ、理解を深め、新オフィスヘのスムースな移転を可能にしたのだ。統合推進室で情報発信を担当してきた経営企画部桑田亜耶子氏は、ワークショップを重ねるごとに社員の意識が変わってきたと言う。
 「2社の統合と本社の移転。会社が大きな変化に面しているからこそ、その道のりを詳細に情報発信することが大切だと考えました。情報をオープンにすることで不安を払拭し、社員全員に‘’本社移転でどう変わるのか、そしてどう変わりたいのか”を自分事化してもらいたかったのです。忙しい仕事の合間を縫って参加するワ ークショップは社員にとっては負担だったかもしれませんが、ワークショップに参加することで新本社オフィスヘの理解が深まっていったように思います」
 社員全員がそれぞれの立場で形にしていった三井デザインテックの新本社オフィス。移転から数ヶ月が過ぎた今、どんな働き方が始まり、どんなイノベーションが生まれているのだろうか?そして社員はどんなウェルビーイングを体験しているのだろうか?ちなみにウェルビーイングとは直訳すると心身と社会的な健康、または幸せのこと。三井デザインテックが考えるウェルビーイングなオフィスとは社員が心身ともに充実できるように‘‘遊びゴコロ"と‘‘伝統と革新’’を凝らした空間であり、リアルなオフィスでしか得られない快適な体験や自由な発想を促す働く場所を意味する。ウェルビーイングという言葉は職場環境や働き方を見直す一つの指標として最近注目を集めているが、単一的で瞬間的な幸せを意味するハピネスとは異なり、持続可能で多面的な幸せを意味するウェルビーイングこそ、三井デザインテックが目指すものだと考えている。
 「新本社オフィスの中にはウェルビーイングを感じられる場所はたくさんあります。僕がもっとも気に入っているのは 3階のSUN ROOM(サンルーム)ですね。たくさんのグリーンに囲まれた空間で、自然の明かりのサイクルを再現したサーカディアンリズムの原理を応用した照明が導入されています。インドアとアウトドアを融合したようなまさにウエルネスな空間。効率的に仕事を行う上で最適な緑視率(目に映る草や木などの緑量の割合)となるよう設計されています。(木下)」
 SUN ROOMは屋外テラス「SORANIWA(空庭)」にもつながっており、室内オフィスだけでは体験できない環境で働くことも可能。今後はテラスに設置した菜園で種まきや苗植えなどを実施予定とか。野菜の収穫など、社員参加型のイペントをおこなっていくことになっている。このようなソフト面からも社員のウェルビーイングを高めていく仕掛けは、オフィスの空間デザインというハード面と組み合わせることで大きな相乗効果を生み出していくだろう。
 3階のカフェスペース「D’s CAFE」も大切なスペースであると語るのは藤本氏。
「新本社オフィスの社内用のカフェ機能はあえてここだけです。社内交流に繋がる機能を3階北側に集約させることで、ランチや休憩時にみんながここにやってくる。そうすれば偶発的に仲間に出会う確率も上がり、コミュニケ ーションを深めるきっかけになっていきます。そもそも新本社オフィスは、働き方に合わせて仕事をする場所を選べるようにデザインしています。大きく分けると1階はプランド発信となる来客工リア。2階は執務エリア、3階南北のエリアは社内・社外、それぞれのコラボレーションエリアです。同じ2階でも、作業に集中したい時は集中作業用のエリアに、WEB会議をしたい時はWEBブースに移動することもできます。 3階のSUN ROOMでは緑に囲まれてリラックスしながら仕事ができますし、“今日はアウトドアな気分だな”という日はSORANIWAを活用できます。仕事内容や気分に応じて働く場所を選べるということは、自由な発想やクリエイテイビティを向上させるのに効果を発揮していると思います」
 エリアに合わせて随所に機能が隠れているそうで、社員全員がオフィスを使いながらその快適さを日々実感しているという。ただ、大きく働き方が変化する本社移転は不安を感じる社員も少なからずいた。
「少しずつですが、社員も使い慣れたタイプの席から離れ社内のあちこちのエリアを試していっているようです。新本社オフィスは年齢や肩書きではなくユーザビリティを第一にデザインしています。だから見慣れた席から離れて、この新オフィスが提案する新しい働き方を自ら体験していくことが大事。そうすることで体験がエビデンスとなり、僕たちが提案したい新しい働き方をお客さんに自信を持って提案することができる!すでに僕たちはそのことに気づいていますし、さらにお客様に来社いただくことでこの快適さを体験しもらい、図面やCGでは伝えきれない新しい働き方のデザインを実感してもらいたいと思っています(平田)」
 大きく働き方が変化する本社移転は不安を感じる社員も少なからずいた。三井デザインテックの新本社オフィスは新しい働き方もそれを具現化するデザインも、そしてウェルビーイングの実現も、すべてを可能にした空間が広がっている。社員にとっては、最高のパフォ ーマンスを発揮できる環境が整ったといえるだろう。ニューノーマル時代の日本の新しい働き方、オフィスのあり方を先導する提案が、ここから発信されることを期待したい。新本社オフィスには三井デザインテックの可能性が満ちている。

サンルームではゆったりとしたソファや木の椅子などを設置。リッラクスできる空間だ。
ワークショップやお客様へのプレゼンにも使用するスペースKITCHEN(キッチン)。
屋外のSORANIWA(空庭)エリア。
仕事はもちろん、ランチや休息などコミュニケーションエリアとしても活用。左側にはサンルーム、右側にはキッチン。
扉を開放することで空間が繋がり、出入りも自由だ。

New Relationships

vol.16

ニューノーマルの働く環境

日本における働き方は、企業の生産性向上やイノベーションの促進、少子高齢化による生産労働人口の減少などの社会背景を基にここ数年の間に変化を迎え、2019年の働き方改革関連法案により広がりを見せました。

 日本における働き方は、企業の生産性向上やイノベーションの促進、少子高齢化による生産労働人口の減少などの社会背景を基にここ数年の間に変化を迎え、2019年の働き方改革関連法案により広がりを見せました。そして新型コロナウィルス感染症の拡大は、個人にも企業に対しても大きな変化を余儀なくし、これまでの変化を急激に加速させるものとなりました。その1つは、働く場の中心であった企業のオフィスが、自宅をはじめシェアオフィスな様々な働く環境に広がったことです。またコロナ禍における制約のある生活は、多くの人にとって改めて人生やライフスタイルについて考える機会となり、豊かさに対する価値観にも変化を及ぼしました。ミレニアル世代やZ世代といった若い世代に色濃く見られた「物質的な充足ではなく精神的な充足」、つまり「心の豊かさや幸福を重視する価値観」が幅広い世代にも広がっていきました。これらを含む多くの変化は、ニューノーマルな働く環境にどの様な影響を与えるのでしょうか。
 以前、三井デザインテック㈱では、働く環境に必要な8つの要素をご紹介させて頂きました。改めてニューノーマルの働く環境として捉え直した「新たな8つのポイント」をご紹介致します。

1 Well-Being -ウェルビーイング-
 これから、個人にとっても企業にとっても最も重要なテーマとなるのが、ウェルビーイングです。ウェルビーイングとは、心身ともに健康で社会的にも満たされている幸福な状態のことを言います。ユタ大学のエリザベス・テニー助教授の研究によると「ウェルビーイングは、モチベーションの高さや、創造性の促進、良好な人間関係など」に効果があり、結果的に個人のパフォーマンスを向上させ、ひいては組織の生産性向上に繋がると言われています。多くの企業で共通して必要とされるイノベーションは創造性が源泉であり、また今後、労働人口が減少していく中では、より高い生産性が求められていきます。ウェルビーイングはそのベースともなる重要な要素といえるでしょう。企業は、働く環境においてウェルビーイングを意識することにより、ワーカーの幸せを実現することが重要となっていきます。

2 Flexibility -柔軟な働き方-
 ワーカーのライフスタイルが多様化する中で、自分に合あった柔軟な働き方をすることは、もはや必然と言えるでしょう。企業は柔軟な働き方を実現する為に、オフィスだけでなく様々な働く場所の選択肢を用意することに加え、制度や運用ルール、インフラなどのソフト面の整備も大切となります。ワーカーが柔軟な働き方が出来ることは、個人の生産性向上、そして個人の理想のライフスタイル実現によりウェルビーイングへと繋がっていきます。

3 Community -コミュニティを形成する環境-
 コロナ禍の生活で大きく制約されたことの一つが人とのつながりです。この「人とのつながり」こそが、幸福感に大きな影響を与えると言われています。世界幸福度調査にも携わっているブリティッシュコロンビア大学名誉教授のジョン・F・ヘリウェル教授は「経済的な豊かさによる幸福は、ある閾値を超えると頭打ちとなり、経済的豊かさ以外で幸福に与える重要な要因は〝人とのつながり″である」と言われています。離れて働く機会が増えてくると、既知の人とのつながりが薄くなるだけでなく、新たな出会いの機会も減ってしまいます。円滑に業務を行う為には、まずはお互いを知り、コミュニティを形成し、信頼を築いていくことが必要です。企業はコミュニティを形成しやすい場所や機会を意図的に提供することが大切となります。

4 Corporate Identity -アイデンティティの共有-
 個々のワーカーの働き方が多様化してくるとコーポレートアイデンティティは今まで以上に大切となります。コーポレートアイデンティティは「理念、ミッション・ビジョン、行動指針、事業活動、社会貢献など」と幅広いですが、これらは企業とワーカー、またワーカー同士を繋げる共通の考えや活動であり、カルチャーの醸成や、エンゲイジメントの向上、人材の維持・確保に大きな影響を与えます。企業は、働く環境においてインターナルな発信・共有の活動が今まで以上に重要になっていきます。

5 Co-creation -インタラクティブな共創環境-
 オンラインコミュニケーションが一般化した今、リアルな環境でのコラボレーションについて改めて考える必要があります。リアルな環境では、複数人の同時多発的な発言や同じ空間ならではの熱量を感じる体験など多くの共有を行うことが可能です。また、言語情報だけでなく言語化されない表情や身振り手振り、距離感など多くの非言語情報を総合的に関連づけることで人のエモーショナルな部分を捉えやすく、お互いの信頼関係を築くことにも繋がります。リアルな場をインタラクティブな共創環境とすることは、多くのメリットを得ることに繋がります。ハーバード大学の心理学者ダニエル・ウェグナー氏は「同じ組織メンバーの誰が何をしっているか(組織知:トランザクティブメモリー)は、組織パフォーマンス向上に効果があり、その効果は〝直接の対話″が多いほど効果をもたらす」と言われています。

6 Serendipity -偶発的な出会いの機会-
 イノベーションの源泉であるクリエイティビティ(創造性)には、セレンディピティがファクターとなります。心理学者のグラハム・ワラス氏は、創造思考(クリエイティビティ)のメカニズムには、4つのプロセスがあると言われています。①Preparation:準備(一人で発散的に思考する)②Incubation:あたため(気分転換・雑談)③Illumination:ひらめき(ブレスト、アイディア発見)④Verification:検証(アイディアを形にする)です。偶発的な出会いから得られる様々な情報や人とのつながりは、このプロセスに影響を与えます。企業が、情報や人とつながれる場所や機会を用意しておくことは、クリエイティビティを生み出すきっかけとなり、イノベーションの創出が期待できるでしょう。

7 Drive -個人のパフォーマンスを高める機能-
 テクノロジーとセキュリティが確保されている環境があれば、多くのワーカーはどこでも仕事を行う事ができます。但し、個人のパフォーマンスはその環境に依存します。オフィスに個人のスペースを用意するのであれば、どこよりも集中でき、テクロノジーに対するストレスがなく、快適な環境であることが、オフィスで個人ワークを行う意味を生み出し、ワーカーの高いパフォーマンスを引き出すことに繋がっていきます。

8 Speciality -専門性を発揮できる環境-
 オフィスというリアルな場所をより有効に活用する為には、企業の専門性や独自性に繋がる機能も大切です。例えば、LABOの様な研究スペースや、工房の様なFABスペース、スタジオ、商品展示ブースなどがそれにあたります。リアルならではの機能と空間は、ワーカーの専門的なスキル向上や、企業としての差別優位性の構築、またワーカーのオフィスに足を運ぶきっかけにもなるでしょう。

 ハーバード大学のタル・ベン・シャハー博士は、ウェルビーイングの構成要素として「精神・身体・知性・人間関係・感情」の5つの要素をあげています。この構成要素を働く環境で捉えると非常に多岐に渡ります。例えば、柔軟な働く場の選択は身体・感情・精神への影響、人とつながる環境や機会は人間関係や精神などへの影響、個人のパフォーマンスを発揮する場所は知性など、前述のポイントは複合的にウェルビーイングに結びついていくと考えられます。
 つまり、企業がニューノーマルの働く環境を提供することは、ワーカーの幸せを実現する一助になっていくのです。様々な変化を捉え、ニューノーマルの働く環境を考える時が、今まさに訪れています。

Offistyle+

vol.16

三井デザインテックのスタッフが国内外のさまざまな職場を訪問し、聞いたこと、感じたことをリポート。

ニューノーマル時代到来の中で、企業も個人も、新たな働き方の軸として注目しているのがWell-being(ウェルビーイング)の実現だ。ウェルビーイングとは直訳すると“健康”“幸せ”。心身ともに良好な状態を意味する。今なぜ、働く環境にウェルビーイングの実現が必要なのか。幸福学の研究者であり、幸せを追求する「ポジティブ心理学」の考え方を多くの企業に提唱する慶應義塾大学大学院 前野隆司教授にお話をお聞きした。

新型コロナウイルス感染拡大に影響を受けたニューノーマル時代が到来し、現在、新しい働き方を模索する企業や個人が増えてきました。特に企業にとっては、社員一人ひとりのウェルビーングの実現は大きな課題となってきています。そもそもウェルビーングとはどのような概念なのでしょうか?

前野氏(以下 前野):ウェルビーイングという考え方は1946年 、世界保健機構(WHO)が提唱したものです。健康、幸せ、福祉までを含んだ心身ともに良好な状態を意味します。幸せというとhappiness(ハピネス)という言葉を思いつくかもしれませんが、ハピネスは感情的に幸せな状態を意味し、その瞬間に楽しい、嬉しいという考え方です。対してウェルビーイングは自分だけがハッピーな状態ではなく、日常にやりがいを感じ、他人との良好なコミュニケーションを築き、社会にも貢献したいと思っている状態で、一般的な幸せよりもさらに広い意味での幸せの概念です。1980年代ごろから心理学の研究が進み、幸せに関する研究が活発におこなわれるようになりました。そして幸せな人は生産性が高く、創造性もあり、しかも長寿でもある、ということがわかってきたのです。また 同時に、ものの豊かさから心の豊かさを重視する時代になってきました。ウェルビーイングという考え方は1946年からありますが、近年の研究成果や社会環境の変化が、今、改めてウェルビーイングの必要性を高めていると言えるでしょう。

コロナ禍が続き先が読めないなか、テレワークやABWなど、積極的に新しい働き方を取り入れる企業が増えてきました。今、私たちが働く環境に何が起こっているのでしょうか?

前野:確かにコロナ禍で働く環境は激変しました。しかし、変化はコロナによるパンデミックだけが理由ではありません。気象災害やAIの進歩など良い意味でも悪い意味でも、時代は大きな変革期を迎えているのです。家にこもった結果、人とのコミュニケーションが減り孤独を感じながら日々を過ごしている人もいます。一方で、オンラインであっても人との繋がりを意識し前向きにやりがいを持って仕事をしている人もいます。先が読めない時代だからこそ、私たちは自分のウェルビーイングを大切にする必要があるのです。では、どんな働き方が理想なのか。例えば副業。私が三菱地所と一緒におこなった調査では、 自分の能力を高めるためにおこなう副業は幸福度が高く、収入を補うためだけにおこなう副業は幸福度が低いという結果が出ました。副業を認める企業は増えてきていますが、これからは社員の副業の自由を尊重し、応援することも必要でしょう。働く場所に関してもオフィスや自宅だけでなく、サードプレイスの利用やワーケーションという選択肢もあります。働く時間に関しても裁量労働制を導入するなど、働く場所もやり方も時間も、社員が望む自由で多様な生き方を用意することが、今、企業に求められているのです。特に未来を担っていくZ世代と呼ばれる若い人たちは、お金よりも幸せを望む世代です。自分の生き方に合わないと思ったらすぐに会社を辞めてしまうでしょう。彼らは別に忍耐力がないわけではなく、自らの意思でそれを選択する時代になったのです。働く人たちの生き方が変わったのです。そのことに企業は早く気づくべきですし、社員に自由で幸せな働き方を提供できるように変わっていく必要があります。

確かに日本では、終身雇用や年功序列が安定と幸せをも たらすと考えられていた時代がありました。この考え方はもう、働く人たちに幸せをもたらさないわけですね。

前野: 働く人たちの幸せについてアンケートをしたことがあります。それによると、従来型の終身雇用・年功序列 を採用する企業では入社直後の社員の幸福度は高い傾向にあるのですが、すぐにガクンと下がり、10年ほど経って 課長などの役職がつくと少し上昇する、という結果になりました。つまり、大企業に入社し安定を手に入れた時は幸福度が高まったとしても、すぐにそれが自分にとって の本当の幸福ではないということに気づき、しかし終身雇用・年功序列という枠組みの中で不幸でも我慢するという構造が出来上がっていました。これでは企業も個人も幸せにはなれません。未だに高度成長期の古い常識に囚われて新しい考え方に切り替えられない企業はたくさんあります。しかし、社員の幸せのために何をすべきかということに気づいた企業と気づけなかった企業では、生産性でも創造性でも、そして採用面でも大きな差が生まれ、気づけなかった企業はやがて淘汰されてしまうはずです。残念ながらコロナ禍の混乱はまだ続くでしょう。だからこそ先を読み、働き方の未来を見つめ直した企業は、 数年後には何もしなかった企業に大きな差をつけることは必至であり、そういう意味では個人にとっても企業にとっても、そして日本経済にとっても今は、自らを見つめ直す本当に大切な時期なのです。

では新しい働き方への取り組みを始めたいと考える企業は、どうすれば社員のウェルビーイングを高めることができるのでしょうか?

前野:幸せの条件を科学的に分析した結果、4つの幸せ因子があることがわかっています。 第一因子「やってみよう」は、自己実現と成長の因子です。誰かに指示されるのではなく物事を主体的におこなうことで大きなやりがいを感じ、自己肯定感が高まります。第二因子「ありがとう」は、繋がりと感謝の因子です。他者との信頼関係を築き、愛情、感謝、親切といった心の通う関係を作ります。第一因子「やってみよう」が自分の変化、革新 を求める因子だったのに対して、第二因子「ありがとう」 は、周りとの安定した関係を目指す因子です。そして第三因子「なんとかなる」は、物事を楽観的に捉え、気持ちを切り替えることを重視します。楽観的で前向きであることは、自己実現においても他者との繋がりを育むことにおいても、とても大切なことです。第四因子「ありのままに」は、人と自分を比較せず、自分らしさをはっきりと持っていることを目指す因子です。これら4つの因子を満たすとき、私たちは幸せを感じることができるのです。企業が目指すウェルビーイングの実現にはさまざまな方法があるかと思いますが、4つの因子を満たす環境づくりが必要であることを知ってもらいたいです。ウェルビーイング実現に向けた具体的な手順としては「知識を得る」「幸せ診断をおこなう」「行動につなげる」を順番におこなってみてください。ウェルビーイングや幸せについては、すでにたくさんの研究結果が出ています。幸せを感じている社員が多ければ企業の生産性は30%高まり、創造性は3倍になります。離職率や欠勤率は減り、仕事のミスも大幅に減ることがわかっています。これらは科学的 な分析による事実です。企業の経営層はこれらの知識を しっかりと認識することが大切です。知識を認識したら、働く人の幸せに関する診断をしてみてください。社内アンケートでもいいですし、例えば私が人材派遣会社パーソルと一緒に調査した「働く人の幸せ分析」診断の方法を活用してみるのもいいでしょう。これは働く場面に焦点 を当てた診断ツールで、幸せと不幸せをそれぞれ独立した概念と仮定し「はたらく人の幸せ因子(7因子)」「はたらく人の不幸せ因子( 7因子 )」を定め計測できます。社員の幸福度が分析できたら、あとは実行です。幸福度が低いと思われるところを重点的に改善していけばいいのです。 健康の実現をイメージするとわかりやすいと思います。 健康だと何がいいのかという知識を得る。健康診断をし て自分の改善点を見つける。その後は、運動をしたり筋トレをしたり健康になるための体づくりをおこなう。みなさん、自然と実践していますよね。幸せの実現も同じです。そして健康がそうであるように、幸せは目指す結果だけではなく、原因にもなります。健康だから毎日楽しく過ごせるように、幸せだから、さらに幸せになるのです。つまり社員がウェルビーイングな環境にいることは、企業の発展に繋がり、結果として企業も個人もさらに幸せになれるという好循環が生まれるのです。

ウェルビーイングの実現で、オフィスのあり方も変わりそうですね。

前野:自由な働き方が大切だからといって、単純にフリーアドレス制を導入すればいいわけではありません。ウェルビーイングの実現は、オフィスのデザインを見直すとい う“ハード”と精神的な充実という“ソフト”がペアになることが重要です。コミュニケーションや自由な発 想を促さない従来型の構造のままでは、座る場所が変わっただけで企業は何も変わらない。コロナ禍でオフィス不要論も出ましたが、オフィスは決して不要ではありません。これからのオフィスは社員のウェルビーイングを高める場所として発展していくべきなのです。

まさに今こそ、日本の働き方が変わる大きな転換期。これからが楽しみです。

前野:そもそも日本人は自己主張が下手で、プレッシャーやストレスに弱く不安を感じやすい民族。欧米のように自分のための幸せを積極的に追求していくウェルビーイングの実現は苦手かもしれません。ただ、日本は和の国です。人と力を合わせて何かを成し遂げることは得意ですよね。これからの働き方は、殺伐とした合理主義ではなく日本人らしいあたたかい繋がりを取り戻していくべきだと思います。日本には日本人らしいウェルビーイングの実現があっていいのです。そして企業は、利益追求は一部の株主のためだけではなく、社員と社会を幸せにするためにあるという“原点”に立ち戻ってほしいと思います。

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