オフィーチェ

新しいワークスタイルを発信する【オフィーチェ】

三井デザインテック
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Future Articles

vol.14

三井デザインテックが取り組むwithコロナ時代における新たなワークプレイス戦略

新型コロナウイルス(COVID-19)に立ち向かいながら、今、多くの企業がワークプレイスのあり方を模索している。新たに始まったwithコロナ時代に、企業は何をすべきか。 課題解決の施策に迷う企業が多いなか、いち早く「withコロナ時代のワークプレイス戦略」を発信した三井デザインテックの取り組みを紹介する。

新型コロナウイルス(COVID-19)に立ち向かいながら、今、多くの企業がワークプレイスのあり方を模索している。新たに始まったwithコロナ時代に、企業は何をすべきか。
課題解決の施策に迷う企業が多いなか、いち早く「withコロナ時代のワークプレイス戦略」を発信した三井デザインテックの取り組みを紹介する。
※取材日:2020年7月

政府による緊急事態宣言が5月末に解除されてから、オフィスには少しずつ人が戻り始めています。それと同時に各企業では、withコロナ時代のオフィスのあり方の模索が始まりました。三井デザインテックでは6月初旬には「withコロナ・afterコロナ時代におけるワークプレイス戦略」を発表するなど、その内容だけでなく、スピード感のある施策への取り組みも注目されています。

岡村英司氏(以下 岡村):新たなワークプレイスのあり方の検討は、緊急事態宣言がそろそろ解除されると話題になり始めた5月初旬から始まりました。解除された後、すぐに従業員を戻していいのか、戻すとしたら会社はどう対応するべきか。課題は山積でしたが、これまで快適なオフィス空間を提案してきた三井デザインテックだからこそ、withコロナ時代のワークプレイスをいち早く実現する必要があると感じたのです。まず、厚生労働省や日本経済団体連合会などから発表されている新型コロナウイルス感染症対策の指針を集め、徹底的に分析。フェーズを緊急事態宣言下、警戒期間、注意期間の3つに分け、施策検討に入っていきました。そして第一に取り組むべきは、従業員への感染防止と考え、5月中に施策内容を固め、6月には新ワークプレイスに向けたパネルやポスターの設置が始まりました。

新型コロナウイルスの流行によって強制的に在宅勤務をすることになった状態から、再びオフィスに戻っていくプロセスは、企業にとっても従業員にとっても前例のない取り組みと言えます。出社に関してはまだまだ不安を抱える従業員も多いかと思いますが、withコロナ時代のワークプレイスには、どんな環境整備が大切だと考えましたか?

岡村:在宅勤務を従業員に推奨している企業はまだ多くあります。三井デザインテックでも、出社率を30%以下にするよう指導が行われています。それでも段階的に出社率を上げていくことになると思いますので、その状態を見越して今から対策を立てる必要があると考えました。そこで弊社ではハード面の設備として、座席間での距離確保や消毒ポイントの整備、さらにアクリル板やビニールカーテンによる仕切りの設置を行いました。アクリル板は飛沫感染を防ぐための特注品です。理化学研究所などが行なったスーパーコンピューター「富岳」による飛沫感染予測をもとに、仕切り板は床から140センチ以上必要であると判断。それに沿って高さを決め、さらに板の中央に穴を開け、書類などのやりとりがスムースに行われるようにしました。また、人の接触を軽減するため、オフィス内の動線を一方通行にし、床に矢印をデザインしたシートを貼りました。

従業員の皆さんの反応はいかがでしたか?

岡村:やはり安心感は感じてくれているようですね。ただ、会社は環境を提供するだけ。大切なのは、従業員が感染拡大予防を意識することです。だからこそ、パネルやポスターなどで、会社がしっかり目に見える施策をすることが大事。そうすることで、「これまでとは違うぞ」「手洗いやうがいを徹底しよう」「自分自身も気をつけなくては」と、個々人への啓蒙に繋がっていくと思うのです。

取引先のお客様の反応はいかがですか?

岡村:参考にしてくださっているお客様は多いです。新型コロナウイルス感染拡大予防に関する指針は出ていますが、オフィス空間に関する具体的な施策を提案しているところはほとんどありません。2m離れましょうと言っても、それではオフィスに入れない人が出てきてしまいますからね。ではどうすればいいのか。快適なオフィス空間を提案してきた三井デザインテックだからこそ、ユーザー視線で考えたのです。企業にとっても従業員にとっても具体的で、何をどう始めていけばいいか、わかりやすい施策になっていると思います。

ピクトサインが話題ですね。デザインを手掛ける会社だけに、シンプルでわかりやすいデザイン。これなら使ってみたい企業も多そう!

岡村:ポスターやピクトサインはダウンロードできます。微力ながら社会貢献のつもりで作りました。新たなワークプレイスでの感染拡大の注意喚起や運用ルールの周知として、多くの企業に活用いただきたいですね。

位置情報アプリを活用した「beacapp HERE」の導入も、新型コロナウイルス感染拡大防止に役立っているそうですね。どのような機能なのでしょうか?

岡村:「beacapp HERE」は、ビーコンとスマートフォンを使ってユーザーの位置をマップ上で確認できるツールです。ユーザーの居場所を検知し、社内における滞在場所・滞在時間をほぼ正確に把握できます。この行動ログがあれば、万が一、感染者が発症した場合、会社は感染者と濃厚接触者の社内での行動追跡を行うことが可能で、その結果、素早く対策を取ることができます。もともとは働き方が多様化し、フリーアドレス制の広まりを期に、従業員同士が、相談などある際に誰がどこにいるかを見つけやすくするために開発されたIoTツールでした。しかし、withコロナ時代のワークプレイスにおいても、新たな利用価値が出てきたと言えるでしょう。「beacapp HERE」の導入で、経営層も従業員も、安心してオフィスワークを行えるはずです。

最後に、withコロナ時代からafterコロナ時代に移行した際のワークプレイス戦略についてもお聞かせください。新型コロナウイルスの感染リスクが収束した後、リモートワークや在宅ワークの体験を踏まえ、多くの企業がワークプレイス戦略を大きく変化させていくことになるでしょう。 新たなオフィスのあり方とは? そして企業が整備するワークプレイスには何が必要でしょうか?

岡村:after コロナ時代に求められるオフィスの役割とは、単なる仕事場の提供ではなく、企業の文化やアイデンティティを感じ、従業員同士、もしくは企業と従業員を「つなぐ」場所となることだと思います。これからは在宅勤務やリモートワークが当たり前の時代になり、仕事や状況に合わせてワークプレイスを自由に選択する働き方にシフトしていくはずです。皆の働く場所がバラバラになっていくわけですから、企業の文化やアイデンティティを通して「つながる」ことが大切なのです。
また、オフィスワーカーである従業員にとって、これからの時代、一層求められるものは、新しい価値をいかに生み出せるか、ということです。仕事は一人ではできません。複数人の同じ「志」を持った「仲間」がそれぞれの力を最大限発揮し「挑戦」できる環境があるからこそ、新たな価値を生み出すことができるのではないでしょうか。そのためには、企業文化やアイデンティティを共有する「仲間」がつながることが大切です。つまり、偶発的な人や情報との出会いが多くあり、企業や組織が自分を応援していると感じられる、さらには従業員同士の心と心をつなぐ「場」であることが今後求められる新しいオフィスとなっていくでしょう。リモートや在宅勤務等では、上記のような「暗黙知の共有」、「偶発的な出会い」、「心理的安全性の確保」は難しいと考えています。
after コロナの時代にはリアルでつながる価値が現在よりもずっと高まり、オフィスの役割がより重要になってくるでしょう。三井デザインテックとしても、after コロナ時代に相応しい新たなワークプレイスの提案をおこなっていくつもりです。

New Relationships

vol.14

special issue

オーストラリアを拠点に活躍するワークプレイス戦略コンサルタント ジェームス・カルダー氏インタビュー
withコロナ afterコロナのワークスタイル、オフィス空間の考え方。

新型コロナウイルスの影響を受け、今、オフィスの環境と働き方が大きく変わりつつある。収束の時期は未だ見えないものの、afterコロナ時代がこれまでの常識とは違う全く新しい時代になることは明らかであり、オフィス空間のデザインについても改めて考える必要がある。そこで、オーストラリアを拠点に活躍するワークプレイス戦略コンサルタントであるジェームス・カルダー氏とこれからのオフィスのあり方、そして新たに模索が始まった働き方について対談を行った。
※対談日:2020年7月8日

武部雅仁氏(以下 武部):今日は大きく2つのことをお伺いしたいと思っています。ひとつは、現在のwithコロナ時代、オフィスや働き方にどういう変化が起こっているかということ。もうひとつは、いわゆるafterコロナ時代になったとき、オフィスや働き方がどうなっていくのかということです。まず、現在のwithコロナ時代について、お聞かせ下さい。

ジェームス・カルダー氏(以下 カルダー):このような急激な変化は世界の誰も体験したことがなく、ほとんどの企業が何の準備もしていなかったので変化にうまく対応できず、結局、世界中の企業がかなり早い時期からオフィスをシャットダウンし、皆が家でリモートワークをするという状況になりました。

大川貴史氏(以下 大川):そうですね、日本も同じ状況です。4月は、多くの企業が充分な準備もない状況で在宅勤務を実施していました。しかしその結果、多くの人が在宅でのリモートワークでもある程度の仕事をこなせるという実感を持ったと思います。パーソル総合研究所の調査では、全国で27.9% 東京では49.1%の企業が在宅勤務を実施という調査数値も公表されています。また別の調査(エス・ピー・ネットワーク調査)では、73.9%のワーカーが今後も在宅勤務を継続したいと回答しています。

カルダー:中国が世界に先駆けて、部分的に人をオフィスに戻していきましたね。それと同時に、人との接触を避けるオフィスの使い方がwithコロナ時代の課題となりました。しかし現在、再びオフィスから離れ、家でリモートワークをする状況に戻っています。

武部:それはなぜですか。

カルダー:オフィス内の感染対策がきちんと行われていなかったり、人と接触することが気になったり、そもそもオフィスに行くまでに公共交通機関を使わなくてはならないことなどが働く人たちの感情にネガティブに働きました。経営層も社員に出社を無理強いすることでリスクを冒したくないという意識を高めていったのではないでしょうか。現在では、全社員の20%くらいをひとつの塊として交代制でオフィスに戻す企業が多いようです。

大川:日本でも多くの企業がオフィスに人を戻すための施策を行っています。出社率を抑制しながら、オフィス内ではソーシャルディスタンスを保ち、飛沫による感染防止の仕切りの設置なども見られるようになりました。(三井デザインテックによるオフィス施策は、Future Articles 三井デザインテックが取り組むwithコロナ時代における新たなワークプレイス戦略を参照)

武部:オーストラリアは今、どういう状態ですか?

カルダー:州によって状況は違います。例えばニューサウスウェールズ州やビクトリア州など大きな経済都市がある州は、まだロックダウンが続いています。それ以外の州では、すでにオフィスで働いている状況があります。ただ世界的には、オフィスに戻ってきている人の数はまだそれほど多くないようです。

大川:日本では、4~5月の緊急事態宣言時点では、前述のとおり多くの企業が在宅勤務を行い想定以上に生産性を維持できるという感想を持っていた方も多くいたと思います。その状況で今後もリモートワーク制度を全社員に拡大すると発表した企業や、オフィスをなくし完全在宅に切り替える企業も見られました。一方で、長引くリモートワークから、インタラクティブなミーティングや、マネジメント、教育などさまざまな課題も見えてきていて、やはりリモートワークを行いながらもオフィスにおけるリアルなコミュニケーションの必要性を強く感じている企業も増えていると感じています。

カルダー:確かに、チームみんなで集まってミーティングをするなど、リアルなコミュニケーションを懐かしむというか、やりたいと思っている人は増えていますね。

大川:おそらく在宅勤務に切り替わった時点では、今までの人間関係や情報のストックによりその延長線上でリモートワークを行うことにあまり支障はなかったのでしょう。しかしながらその状況が長引き、また今後も出口が見えない状況においては、ストックが減少し、新たなストックや、今までに代わる施策が必要となったのだと思います。

武部:オフィスワークとリモートワークが共存するafterコロナ時代においては、オフィスの空間はどうなっていくのでしょうか。

カルダー:多くの人が未来は大きく変わっていくと認識しています。ビジネスもFace to Faceでなくても提供できる形態が増えていくでしょう。それに伴いオフィスのあり方・働き方はデスクファースト、フレキシブルファースト、リモートファーストの形態に変わっていくのではないかと考えています。

大川:私も同様に考えています。「①働く場所がオフィスメインの従来型/②オフィスを最小限あるいは不要とするリモートワーク主体型/③リモートワークを活用しながらオフィスも使用するリモートワーク併用型、そしてもう一つ、リモートワークを併用しながらオフィスも使用していくのですが、オフィスの機能をコラボレーションに絞り込む④共創スペース中心型」の4つに分類されていくのではないかと思います。今後の働き方がこれら4つに大きく分類されていくとして、日本でもリモートワークを導入する企業はwithコロナからafterコロナにかけて、業種や職種による差はあれど全体的には増加していくと思います。ただafterコロナにおいては、リモートワークを導入したからと言って、フルでリモートワークを行う企業の数(②リモートワーク主体型:リモートファースト)は少なく、多くの企業は、リモートワークとオフィスワークを併用する③リモートワーク併用型:フレキシブルファーストに移行していくのだと思います。ちなみにコロナ期の話ではありませんが、フランスでは2018年1月の労働法の改正によりリモートワークをワーカーへの権利として位置づけました。企業はリモートワークをワーカーにさせない場合にはその理由を説明する義務が生じています。法改正後、企業はリモートワークを導入しましたが、大半の企業が週2日までと上限を設けています。その参考とされたと言われているのが、Centre d’analyse strategiqueが作成した「明日のデジタル社会におけるリモートワークの発展」と題する2009年の報告書で、「リモートワークが週1日未満の場合、リモートワークの体制構築の手間だけが増えメリット(ストレス軽減、ライフワークバランス、意欲向上など)を享受できない」「週1~2日の場合は効率が上がり生産性が向上」「週2.5日以上の場合は社員と企業の接点が減り情報格差、孤立感が生まれ生産性は低下」と考察されています。またDanish Technologie Institutによるリモートワーク日数と生産性の関係性を示した調査では、月に13日(40%:週2日程度)が生産性を最も享受できるとの研究も見られます。今後さらにテクノロジーが進化することにより、リモートワークによる情報格差や、リアルに近いコミュニケーションが可能となることは考えられますが、これはひとつの目安となると思います。

カルダー:afterコロナ時代には、オフィス面積が減る可能性があると思っています。家で働く人、フレキシブルで働く人が増えてくるので、小さいスペースで十分と考える企業は多いはずです。ただし、オンラインミーティングができるスペースを今よりも増やす必要があると思っています。またこれからのオフィスはビジネスの場というよりもどちらかというと楽しい、組織文化を高める活動をする場所に変わっていくでしょう。つまり、デスクがずらっと並んでいるような環境ではなく、企業文化を高めるためのスペースが増えていくと思われます。その際、企業はコストの配分をどう考えるかが重要です。リモートワークが増えることで通勤コストや残業コストが下がります。企業はその減った分をリモートワークに関連するテクノロジー整備に回すことになるでしょう。しかしハード面だけにコストをかけるのではなく、社員の会社への帰属意識やチームビルド構築のためにも有効的にコストをかけるべきです。そうすることが生産性の向上に繋がっていくのです。さらにコストの見直しに関して付け加えると、企業はオフィスの賃貸借期間を短くする方向性も模索し始めるでしょう。

大川:そもそも海外のリーシング期間は、日本よりも長いですしね。afterコロナにおけるリモートワークの拡大においては、在宅での環境だけでなくシェアオフィスにおけるリモートワークの需要も一層増えると思います。日本は特に都心型のシェアオフィスが主流ですが、今後は自宅に近い郊外型、あるいは休暇中におけるワーケーションなども増加していくのではないかと思います。

武部:オフィスが集約するオフィスビルは、どのように変化していくとお考えでしょうか。

カルダー:オフィスビルはこれまでの常識とは違う革新的な空間になっていく必要があるでしょう。例えるならホテル。泊まった日数分だけお金を使うように、使った分だけ支払う。そういうホテル的なビジネスモデルのオフィスビルも出てくるのではないでしょうか。いろいろな人が多目的に一時的にワークスペースを借りるコワーキングオフィスのようなイメージです。

大川:なるほど。afterコロナ時代に向けて、オフィスのあり方も働き方も今後、間違いなく多様化していきそうですね。企業においては、自社のアイデンティティの共有とカルチャーの醸成をいかに行っていくか、働き方と働く場の両面で考えていくことが大切ですね。

James Calder (ワークプレイス戦略コンサルタント)

ワークプレイス戦略、設計をコンサルティング。
オーストラリアを中心に、北米、ヨーロッパなどで多くの経験を持ち、世界的に有名な企業、政府官公等とネットワークを持って幅広いビジネス分野に携わる。弁護士、会計士、経営コンサルタント、メディア、技術系企業、投資銀行、小売業、政府官公など幅広い分野におけるワークプレイス戦略コンサルティングの実績がある。National Australian Bank , Macquarie Group 等は、Calder氏の思想に基づいたビッグプロジェクト。次世代の建物を設計するためにディベロッパーや不動産所有者と共に開発コンサルティングを行うと共に政府開発機関と協力して、区域や地域の経済発展までを支援する。また、世界各国のレセプションで定期的に講演を行うと同時に、ワークプレイスの専門家として多数のメディアへ掲載されている。

〈主な実績〉
■Atlassian, global workplace strategy ■Westpac, Sydney workplace strategy incorporating new Barangaroo workplace
■Gilbert + Tobin, Sydney workplace strategy and implementation ■80 Collins Street Melbourne project strategy
■700 Bourke Street Melbourne project strategy ■Macquarie Group, One Shelley Street, Sydney project strategy
■Woolworths headquarters, Norwest Sydney

Offistyle+

vol.14

KESIKI INC. 石川 俊祐氏 インタビュー

新型コロナウイルスとの共存を余儀なくされている現在、人々はこれまでとは違う新しい思考を抱き始めている。
働き方、暮らし方、そして生き方。Withコロナ時代の先には、いったいどんな未来が待っているのか。
いま最も注目されているデザインディレクター・石川俊祐さんにお話をお聞きした。

年明けから徐々に新型コロナウイルスの影響が出始め、4月には政府による緊急事態宣言も出されました。日本はもちろん、世界の誰もが予想もしなかった状況となり、働き方は大きく変わりつつあります。石川さんはこのような状況にどう対応されてきたのでしょうか?

石川俊祐氏(以下 石川):実は新しいオフィスに3月から入居したのですが、すぐに全員がリモートワークをすることになってしまって(笑)。ただ僕たちKESIKIではオフィスを“出社する場所”として捉えていたわけではないので、新型コロナウイルス感染拡大によってリモートワークを余儀なくされても、比較的スムースに受け入れることができました。でもリモートワーク独特のデジタルツールの使い方に慣れるのに少し時間がかかりましたね。画面をずっと見ながら誰かの顔を見ている。しかもプレゼンスを保たなくてはいけない。すごく疲れる体験でした」

まさにwithコロナ時代が始まったわけですが、これからのオフィス、そして働き方はどうなっていくと思われますか?

石川:現在は、僕らの言葉でいうところの「プロトタイピング中」ですね。これまでとは違う環境での働き方を強制的に実験されているような状況だと思います。新型コロナウイルスの影響で多くの人がオフィスに出社できないわけですが、そもそもオフィスに集まらなくてはいけない理由は何か? どうして集まりたいのか、リモートではできない大事な部分とは? そんなことを誰もが考え始めていますよね。ただ、オフィスはもういらないかというと決してそうではない。今、リモートワークが主流になって何が起こっているかというと、働く人たちの中に“余白”がなくなっているんですね。隣の席の人と雑談したり、同僚と飲みに行ったり、そんな余白的な時間がすごく少なくなっている。通勤しなくなったことで、感染リスクは下がるかもしれませんが、ゲームをしたり、本を読んだり、窓から外を眺めてぼーっとしたりという自分の時間、遊びの時間もなくなってしまった。これからの企業はそういう余白を提供してくれるようになるといいですよね。今まではオフィスは仕事の場であり、働く人たちにとって毎日出社することが常識だった。でも、未来のオフィスは用がなければ行かない場所になるかもしれない。つまりオフィスは、訳あっていきたい場所になるべきなんです。働き手のベネフィットになる場所、余白を楽しめる場所になっていかなくてはいけないでしょう。

オフィスというものの再定義が求められそうですね。オフィスの場所も、都心にこだわる必然性がなくなっていきそうです。働く側からしても、毎日満員電車に乗って会社に行く生活よりも自然の中で人間らしい暮らしをしたいという欲求が高まりそうですね。

石川:そうですね、企業は働く人たちの生活を軸にオフィスを捉え直していくことになるでしょう。オフィスの場所も都心一極集中ではなく、郊外や地方などに移転、もしくは多拠点展開する企業が増えそうです。働く人たちも“働くとはこうあるべき”という常識や決まりごとに縛られず、これからは一人一人もっと主観的に働き方を考えてもいいのではと思います。現在のリモートワークなどを通じて、これまでの働き方の常識に違和感を持ってしまった人は、もう以前の常識には戻れない。企業としては新たな働き方をどう提供するのか模索が続くでしょう。

まさに新しい時代が訪れようとしているわけですが、これからの企業には何が必要なのでしょうか?

石川:ビジョンですね。企業の人格とも言えるかもしれません。新型コロナウイルスの影響で企業は大変な状況にあるかもしれませんが、目の前の課題に追われるのではなく、今こそ自分たちが信じる未来の姿を示すことが大切です。オフィスのあり方・働き方に関する定量的な課題にだけ目を向けず、働く人たちが感じ始めた定性的な違和感を大事にするべきです。カメラで例えると、画質よりも写真をシェアすることに楽しみを抱く人が増えていますよね。小型化・高画質をneeds(ニーズ)とし、そこだけをPains(ペイン)として改善し続けていた企業は、まったく新しいカメラの未来が来たときに対応に苦しんだはずです。だからニーズやペインを定量的エビデンスだけで測ってはいけないんです。エビデンスがあるということは、そのニーズはすでに過去になりつつあるということ。それにとらわれると新しい未来は描けません。新型コロナウイルスの影響で、これまで表層下にあった働き方に対する潜在的なニーズが、今、表面化し始めています。この潜在的ニーズをしっかりととらえ、企業として社会に対してどうありたいのか、哲学やミッションを明確に描き、働く人たちを導いていく必要があるのです。企業が明確なビジョン、人格を示せば、能動的にそこで働きたいと考える人は多いでしょう。オフィスのあり方・働き方に関しては、afterコロナ時代は間違いなくこれまでとは違う未来がやってきます。今このときを、企業の人格形成についてしっかり考えるきっかけにして欲しいと思います。

<KESIKI Inc.とは>
2019年11月に創業した今最も注目されるクリエイティブ・ファーム。デザイナーや編集者、事業構築のプロフェッショナルなど、多様な専門性をもつメンバーで構成されている。デザイン思考のアプローチを通じて企業の強さの源であるCULTUREを作り、それを体現するEXPERIENCEを生み出すことでLOVED COMPANY(愛される企業)をデザインする。2020年7月、デザインの力をブランド構築やイノベーション創出に活用し国際的な競争力を高めていく経営手法「デザイン経営」を推進する特許庁のパートナーに選出された。
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