オフィーチェ

新しいワークスタイルを発信する【オフィーチェ】

三井デザインテック
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Future Articles

vol.12

X-NiHONBASHi PROJECT

江戸開府以来、五街道の起点が置かれ、経済、文化の中心地として発展してきた日本橋。老舗店も多く歴史を感じさせるこの街が、いま、宇宙関連ビジネスの最前線になっている。そのイノベーションの拠点とは「X-NiHONBASHi」。宇宙ビジネス創出を目的として、宇宙に関連するイノベーターが集まるシェアオフィスである。その共創の空間を紹介する。

フロア入り口正面に設置された逆さ釣りされた木のオブジェは、写真映えするスポットとしても人気。シェアオフィスユーザーはもちろん、イベントなどで訪れた人も、この木の前で写真を撮ることを楽しんでいるのだとか。

ここ数年、日本橋はその歴史を踏まえながらも新しさを感じさせる街として大きく変わってきた。日本橋エリアマネジメントを担当する三井不動産「日本橋街づくり推進部」では、日本橋らしさを大切にしながらも、この街で新しい事業を育てていこうと模索。薬種問屋が立ち並ぶ街の歴史を踏まえ、日本橋をライフサイエンスに関するイノベーションの拠点に整備することを発表し、話題を集めた。その記憶も冷めやらぬ2018年夏。「次は日本橋×宇宙だ」という驚くべきプロジェクトの構想が、三井デザインテック 日本橋営業所の岸祐一氏のところに飛び込んできた。三井不動産「日本橋街づくり推進部」が掲げたテーマに最初は戸惑ったが、直感的に「面白い。ぜひやりたい!」と思ったと岸氏は言う。  そのプロジェクトの第一歩として三井デザインテックが依頼されたのは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)をハブとする宇宙関連ベンチャー企業が集まるシェアオフィスを作ること。しかも築50年を超える古いビルの7階フロアのリノベーションである。見かけも設備も古いビルのフロアを、宇宙を感じさせる空間にどう変貌させられるか。これまで経験したことがない難題に、デザイナーの本田夏菜氏は早速、JAXAを訪問することにした。展示されていた国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の中に入ったとき、天井にも壁にも同じ収納庫が設置されていることに着目。無重力の宇宙では360度がフィールドになることに改めて気づき、デザインのインスピレーションを得たと言う。

宇宙閃光を彷彿とさせるレモンイエローのラインを床面にデザイン。ラボをイメージしたフロアデザインの中で、シャープなアクセントになっている。
ラボに宇宙人出現!? トイレの場所を示すサインに宇宙人がデザインされている。こういうさりげない遊び心こそ、イノベーションを刺激するのだ。
左から)佐野里香子氏、岸祐一氏、本田夏菜氏

「このシェアオフィスは宇宙という未知の世界で新たな可能性を探す人たちが集まる場所。そんなイノベーターたちを刺激するデザインがこのシェアオフィスには必要だと感じたんです。そのとき浮かんだのが、これからの未来の姿。テクノロジーと有機的なものが美しく共存していく未来です。そこで宇宙を研究するラボをデザインコンセプトに、その無機質なラボの中に有機物の象徴として緑が茂る木を設けようと思いました」
 フロアの入り口正面に、地上の常識とは異なる未知の感覚との出会いを意識し、木をあえて逆さに吊るした。天地逆転の木である。しかも木の下にはブラックガラスを配置。宇宙を彷彿とさせる暗闇の中にぼんやりと木が写り込む仕掛けだ。
「実際に見えているものとは違う世界もある。そんなワクワク感のあるデザインにしたかったんです」
 このシェアオフィスの特筆すべきところは、デザインだけではない。実は打ち合わせから完成までは約5ヶ月間、工期は実質1ヶ月半だった。2018年9月中旬に着工し、11月上旬にはオープンさせなくてはいけなかったのだ。「とにかくスケジュール管理を徹底した」と岸氏は当時を振り返る。工事の責任者である佐野里香子氏も、打ち合わせから始まり、半年足らずで完成させたことは驚異的だと語る。
「三井デザインテックとして過去に工事を手がけたことがあるビルではなく、初めてとなる建物でしたので、設備等の情報を持ち合わせておりませんでした。そこで現地調査を急ぎ、古い躯体を上手に活かすことも視野に入れ、最短工期となる工事手順を計算。まず天井の解体から始め、空調配管や電気配線のルートを整えました」
 短い工期ながら、シェアオフィスの拠点名である「X-NiHONBASHi」のロゴデザインも担当。衛星の軌道を模したデザインになっている。コワーキングスペースには宇宙の閃光をイメージしたレモンイエローを随所に使用。可動式の机や椅子、ホワイトボードを配置し、フレキシビリティの高い自由な空間に仕上げた。普段はゆったりとしたスペースながら、イベント時には最大80名の着席収容を可能にする。短期にこれだけの成果を上げられたのは、デザイン、施工、そして園芸やサインデザインまで、三井デザインテックを中心とするさまざまな企業の連携力の賜物と言えるだろう。発注元の三井不動産やシェアオフィスのハブとなるJAXAとも“一緒に造る”姿勢を共有。柱のグラフィックデザインはJAXAに資料提供の協力をもらったということからも、プロジェクトに関わったメンバーの一体感を感じさせる。

 日本橋と宇宙。日本のアイデンティティーとも言える街に、遥かなる宇宙に思いを馳せるベンチャー企業が集まるシェアオフィスが誕生した。そのデザイン性の高さに業界内外から注目が集まり、オフィスの利用はもちろん、イベントの開催など、共創の空間として多くの頭脳と宇宙への情熱がここに集まり始めている。「X-NiHONBASHi」から新たな宇宙イノベーションが起こる日も近いだろう。オフィスのデザインがもたらす影響は大きいのだ。

フロア中心部のコワーキングスペースは椅子やテーブルの可動性が良く自由度の高い設計。ホワイトボードも同様で左右に自由に動かすことができる。
短い工期だったこともあり、古いビルの躯体を上手に活かし、宇宙ラボのイメージに近づけた。柱のグラフィックは、JAXAから提供された宇宙に関する公式や名言をデザインしたもの。

New Relationships

vol.12

アクティビティ・ベースト・ワーキング

「アクティビティ・ベースト・ワーキング(ABW)」は、正に自分の仕事内容に合わせて最適な環境を選択する働き方として注目され、それを取り入れたオフィスも増加しています。 では、ABWを取り入れることによって、どのような効果が見られるのでしょうか。

 近年、働き方の多様化に伴い、時間や場所を自由に選択できる働き方が多く見られるようになってきました。本誌でも何度か取り上げてきました「アクティビティ・ベースト・ワーキング(以下、ABW)」は、正に自分の仕事内容に合わせて最適な環境を選択する働き方として注目され、ABWを取り入れたオフィスも増加しています。
では、ABWを取り入れることによって、どのような効果が見られるのでしょうか。

 今回は、心理学者でワーク・エンゲイジメントの専門家である北里大学 一般教育部 島津明人 教授(現慶應義塾大学 教授)と、日本ではクリエイティビティ研究の第一人者である東京大学大学院 経済学研究科 稲水伸行 准教授と共に行った「ABWに関する産学共同研究」をご紹介致します。
 本研究では、東京23区100名以上の企業に勤める25歳~55歳:3000名(会社役員・会社員)を対象としたインターネット調査によるデータを基に研究を行っています。

まず、現在のオフィス環境について、席の自由度と環境選択の自由度により、「①固定席 ②単純フリーアドレス ③固定席型ABW ④ABW」の4つにオフィスレイアウトを分類しました。(グラフ-1:参照)本研究での定義として、①固定席はデスクを向かい合せに一律に配置した島型対向式レイアウトで自席が固定化されたオフィス、②単純フリーアドレスは島型対向式レイアウトをフリーアドレス化したオフィス、③固定席型ABWは自席以外に集中ブースやカフェテリアなど様々なスペースが用意され自由に環境を選択できるオフィス、④ABWは同様の環境でありながら自席を持たない形式と定義しています。

 最初の分析では、島津明人教授の専門分野である「ワーク・エンゲイジメント」と「個人のパフォーマンス」が4つのオフィスレイアウトにより、どの様な効果の違いがあるか見てみました。(グラフ-2「ワーク・エンゲイジメントとの関係」・グラフ-3「個人のパフォーマンスとの関係」参照)尚、ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対する“熱意・活力・没頭の状態”を言い、組織に対するコミットメント(組織エンゲイジメント)との相関性も高いと言われています。

 ワーク・エンゲイジメント及び、個人のパフォーマンスについては、似た傾向が見られました。共に固定席型ABWとABWが他のレイアウトと比較して高い数値を示しています。「企業が働く場所の選択肢を提供することによって、ワーク・エンゲイジメントを高めることに繋がり、また、自分の業務内容や目的に応じて最適なスペースを選択できることが、個人のパフォー マンス向上に繋がる」ことが分かります。

 次に心理的ストレス反応との関係を見てみます。こちらのグラフ(グラフ-4「心理的ストレス反応との関係」参照)では、縦軸が高いほどストレスの高さ(マイナス)を表しています。固定席より単純フリーアドレスの方がストレス反応値は高く、自席が確保できないことがストレスの要因になっている事が推測されます。ところが、同じように自席が確保できないABWを見ると、ストレス反応の数値は低く、「これは仕事内容に応じて自席を選べるABWは、座席選択に対するコントロール感が高いのに対し、単純フリーアドレスはコントロール感が低いと言えます。この“コントロール感”の違いが、数値に現れたと考えられるでしょう。」(島津明人教授)

 クリエイティビティとの関係(グラフ-5「クリエイティビティとの関係」参照)では、ABW・固定席型ABWの数値がともに高いことから「働く場所を選択できること」が、クリエイティビティを高めるのに重要であることが分かります。一方で、比較して非常に低い数値を示したのが、単純フリーアドレスです。「単純フリーアドレスを導入しても、同じ人が同じ場所にいるという “場所の固定化”が起こるケースが少なくありません。そうなると、オフィス内で人が動き回り、日頃顔を合わせない人同志のコミュニケーションが促されるというフリーアドレス導入の効果が引き出されにくい可能性があります。クリエイティビティは、『準備→孵化→ひらめき→検証』という段階を経て発揮されると言われ、他者とのコミュニケーションが必要な時もあれば、静かな環境で集中することが必要な時もあります。ABWならこの段階に応じて場所を選べますが、単純フリーアドレスの場合はそれが容易ではないという事が、この結果ではないでしょうか。」(稲水伸行准教授)

本研究では、オフィスレイアウトにおいてさまざまな効果を期待できるのが、ABWであることが分かりました。しかしながら、全てにおいてABWが適しているのではなく、業種や職種など、仕事の仕方により適した環境は異なります。企業の目的や課題に合わせて、適切なレイアウトやスペースをきめ細やかに考えていくことが何よりも重要です。

Offistyle+

vol.12

ワークプレイスはハイブリッドへ

〔翻訳:カルダー・コンサルタンツ・ジャパン株式会社 代表取締役 奥錬太郎〕

Navigator : James Calder(ワークプレイス戦略コンサルタント)

Porsche 919 hybrid
2リッターエンジンに電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用。
2015から2017年に撤退するまでの間に、3年連続でWECマニュファクチャラーズタイトルを獲得した。

ワークプレイスデザインの世界において私たちは、一般の人にとって紛らわしい用語や、誤解を招く見出しをつけた無意味な情報を提供しがちである。オープンプラン、ホットデスキング、アクティビティベーストワーキングといった用語はほんの一例。最近ではアジャイルがバズワードとなっているため、かなり頻繁に使われている。このような得体の知れない用語を目にしたオフィスワーカーは、理解に自信が持てないままビクビクしながら情報を得ようとする…が、それらが一体何を意味するのか、簡潔に教えてくれる説明はほとんどない。そして追い打ちをかけるのが「次のトレンドはこれだ!」と持てはやす不動産サービス業界。彼らはいつものやり方で、どこかで新しく見つけてきた知識を、職場を一変させる新しいワークプレイスモデルとして祭り上げ、それを否定する組織を時代遅れだと切り捨てる。しかしそれは、たいていコストカットの方法か限られたスペースに人を詰め込むための手法に過ぎず、そもそも何のために新しいワークプレイスが必要なのか? という命題は、はるか昔に忘れ去られていることが多い。
 実際は、どのようなタイプのワークプレイスであっても、上手くいっているものもあれば、そうでないものもある。そして単純な用語では到底説明しきれないほどの多様性がワークプレイスにはあると考えた方がいいだろう。もしかすると私たちは、イヌイットのやり方を取り入れて(雪の種類を表現するために50種類以上の言葉を使い分けている!)、多様なワークプレイスのあり方を最適に表現する用語をつくり出すべきなのかもしれない。
 過去30年間、大きく分けて5つのワークスペースモデルが登場した。個室オフィス、オープンプラン、ホテリング、アクティビティセッティング、アジャイルチームスペースだ。近年、私たちが実施したワークプレイス調査の結果、ひとつのワークスペースモデルだけを選択するのではなく、いくつかのモデルを組み合わせるべき、と結論づけるケースが多くなってきている。つまり、ハイブリッドワークプレイスだ。
 この結果は、アクティビティベーストワーキング(ABW)をワークプレイスの進化の最終形として取り入れた組織にとっては残念な話だろう。最終形と思っていたら、結局、アジャイルプロセス*の導入に迫られ、そのために6~8人が対面で自席に座れるスペースを用意する羽目になるのだから。しかも、そんなアジャイルプロセスにもまた、オフィス主体で働くメンバーと、リモート主体で働くメンバーのいるハイブリッド型が存在するから話は複雑だ。さらに、ワークスタイルと組織文化によってハイブリッドの形も当然異なってくる。近年の法律事務所のオフィスはまさに極端な例だろう。全員が個室か、全員がオープンかのどちらかに振れることが多いのだ。実際は両方が混ざっている方が使いやすい場合が多いにもかかわらず、である。ワーカー個々の好みや、同じ弁護士という職業でもワークスタイルが人それぞれ微妙に異なることから、画一的なワークプレイスモデルを全員に押し付けることは適切とは言えない。そこで、最近の個室主体の法律事務所では、窓際にずらりと並ぶ個室オフィスのいくつかをオープンスペースに変え、開放的な空間を好むワーカーにも使いやすいオフィスを作るようになってきた。開放感を出すため、フロアの中まで自然光を取り入れることも多い。完全にオープンなオフィスにしている法律事務所もいくつか存在するが、業務の流れを考えると、やはり個室空間もあったほうが良いだろう。

ABW型のワークプレイスでは、近年、アジャイルチームが組織内に存在するようになっていることが多いため、その場合はフレキシブルなスペース運用(共有席)の中で、一部、固定的な運用(固定席)も混在させている。現在ではどの組織にもプロジェクトチーム(組織横断型で一定期間集中的にチームワークをおこなうチーム)が存在していることから、チームが一定期間占有して使えるスペースを用意することも必須だ。さらに、ひとつのプロジェクトが終わるとチームが解散し、また異なる新たなチームが生成されることから、スペースのデザインを頻繁に変えられることも大切である。一方、プロジェクトスペース以外のエリアは、できるだけABW型のフレキシブルな状態で存在させておきたい、というハイブリッドなビジネス要求を受け止める必要がワークプレイスに生じている。
 ちなみに、私たちも新しいワークプレイスモデルの使用が始まっている。研究活動には個室オフィス、教育にはレコーディングスタジオ、事務業務には個人の集中作業から複数人数による共同作業までをカバーするアクティビティセッティング、そしてタッチダウンスペースといったように、ワークプレイスで展開されているさまざまなスペースを用いているのだ。
 このようにワークプレイスのハイブリッド化による複雑性が増加することで、組織によるスペースの管理方法に大きな変化が生じている。新しいスペースを最大限活用するためにその使い方をマスターすることが必要となり、その結果、従来よりも更に包括的なチェンジマネジメントとワーカーとのコミュニケーションの必要性が高まっている。また、ワークプレイスのハイブリッド化は、ワークプレイスのデザイナーやコンサルタント、ファシリティマネジャー、家具業界にとっては新たなチャレンジとなるだろう。ホワイトボードやスマートボードのような新しい製品を導入すれば良いというものではないからだ。必要とされているのは、インタラクションと集中という対極の活動をスピーディに行き来できるような新しいワークプレイスの形である。各プロジェクトチームの変化に即時に対応できるように、配置を自由に変更できるアクティビティセッティングとアジャイルスペースが横並びになっているような環境が必要なのだ。家具を固定してレイアウト変更する代わりに人が動いて対応する、というABWモデルは、(ファシリティマネジャーにとっては天国だったが)スピードが最優先されるハイパフォーマンス型の組織では、もはや実用的ではなくなってきているのだ。
 つまり、複雑なハイブリッド型のワークプレイスモデルを単に導入するだけでなく、新たなモデルにリアルタイムに移行できるようにすることも必要。そしてそれは、組織の正しいスペースの運用があってはじめて完成する…。何と長くて複雑な道のりだろう。まずは最新のワークプレイスのあり方を表現する50の用語をつくるところから始めようか。

電力会社の送電網に頼らないオフグリッドの先駆けとしてTesla Motorsのイーロン・マスクCEOによって発表された家庭用バッテリー。従来の電力会社からの電力に加え、太陽光パネルで発電された電力をバッテリーに蓄ることで停電時にも独立して使用できる、ハイブリッド運用が可能となる。
古い風車が目的と形を変え、発電用風力タービンとして数を増やしている。火力、水力、原子力、風力…という様に、発電システムは昔からハイブリッドだった。
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