オフィーチェ

新しいワークスタイルを発信する【オフィーチェ】

三井デザインテック
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Future Articles

vol.8

WORKSTYLING PROJECT

三井不動産株式会社

「新しい時代にふさわしい働く場」の創出に取り組んできた三井不動産が新たに手掛ける
法人向け多拠点シェアオフィス「WORKSTYLINGプロジェクト」。
最新のWORKSTYLING 汐留が完成し、2017年4月に10拠点が正式にオープンした。
コワーキングやサテライトオフィスのニーズが高まる中、企業ワーカーが社外で安心して働ける場の登場に
注目が集まっている。

WORKSTYLING 大崎

2017年4月6日、三井不動産は、働く場に関する新たなソリューションである、法人向け多拠点シェアオフィス「WORKSTYLINGプロジェクト」の提供開始を発表した。「このプロジェクトは、働く人たちの働き方をより良い方向に変えていこうというものです」と話すのは、三井不動産・安藤氏。高齢化社会や労働人口減少が進む中、企業には生産性の向上や多様な人材の活用など、これまで以上に効率的かつクリエイティブな仕事が求められている。それに伴って注目されているのが、働き方の変革だ。近年は、企業に属しながら、ワークスタイルやライフステージに合った働き方をワーカー自らがつくり出すことで個人の生産性が高まり、企業の業績向上にもつながるとの考えが広まっている。WORKSTYLINGは、そのような新たな働き方を実践するための拠点であり、ワーカーにとっては、働く場の選択肢の1つとなる。

WORKSTYLING 八重洲
個人作業スペースは完全個室以外に扉のない個室ブースも。シンプルかつスタイリッシュなデザインで落ち着いて作業できる空間に。
WORKSTYLING 八重洲
最初に手掛けた八重洲がその後の拠点のベースとなっている。「各拠点の利用シーンを考え、『八重洲より少しラグジュアリーに』『ラフを強めに』と考えていきました」と児玉氏。
左から)三井不動産(株)川路武氏、三井不動産(株)安藤佑治氏、三井デザインテック(株)児玉あゆみ氏

正式にオープンした10拠点のWORKSTYLINGは、都心部を中心に利便性が高い場所にある。立地も含め、拠点開設にあたって重視した点について、安藤氏は「便利さという点では駅に近いことは重要な要素です。加えて、働く環境は仕事のモチベーション維持のための大きな要素だと思うので、自分自身が働きたくなる場所かどうかは考えましたね。自分が働きたい街や周辺環境、そして空間。例えば『ビューが良い』というのも結構大事だと思います。そういう意味では、家を選ぶ感覚に近いかも知れません」と話す。また、空間づくりについては、「個室、オープンスペース、その中間のセミオープンを自由に行き来できるようにしています。エリアを明確に区切りすぎると気分が変えづらいですよね。会社でもちょっと打ち合わせして、ちょっとブレストして、自分の机に戻ったら集中するなどスペースを行ったり来たりします。そのような動きが自然にできる空間を目指しました」と、三井不動産・川路氏が続ける。

それらの思いを受け止め、デザインを担当した三井デザインテック・児玉氏は、「多様性を受け入れ、コミュニケーションが生まれる空間であると同時に、WORKSTYLINGでしか得られないインプットがあり、それが良質なアウトプットにつながるように、『インプットフィールド』を中心に空間づくりをしました。デザインのキーワードは『ラフ&ラグジュアリー』です。ラフだけではカジュアル過ぎてしまうので、法人向け、セキュリティ面もきちんと考慮しているというイメージを取り入れるためにラグジュアリー的な要素も加えています。また、立地によって求められる機能やテイストに違いがあるので、デザインに統一感をもたせながらラフとラグジュアリーの配分を調整しています」と話す。

そして、「WORKSTYLINGでしか得られないものが必要」という考えは、これからの展開においても重視されているようだ。「都心部から郊外へ、さらに全国へと広げ、2017年度内に30拠点を目指しています。その際、スペースをつくって『お使いください』というだけでなく、受付の対応やビジネスサポートツールの選定、サービスの充実なども進化させ、さらに魅力的な拠点をつくっていきたいと思っています」と、川路氏。「場所の提供」から、ソフトも含めた「総合的な働き方の提案」へ。ニーズや時代の流れを見極めながら、企業とワーカーの新しい働き方へのアプローチは今後も続いていく。

上から)WORKSTYLING 大崎、WORKSTYLING 新宿、WORKSTYLING 渋谷、WORKSTYLING 霞が関
滞在時間や作業内容など、拠点ごとに異なる利用傾向を踏まえて空間をデザイン。テイストを変えつつ、WORKSTYLINGと分かるような統一感を出した。

New Relationships

vol.8

世界の最新情報からオフィス・トレンドを探る

生産性向上につながるアクティビティ・ベースト・ワーキングとは

本誌Vol.6でもご紹介したとおり、現代におけるオフィスの役割は、効率的に働くことだけでなく、創造性を生み出すこと、従業員の健康や満足度の向上、企業ブランディングの浸透、リクルーティングなど非常に多様化しています。そこで今号では、ワークプレイスの在り方として、日本でも認識が高まってきている「アクティビティ・ベースト・ワーキング」についてご紹介します。

フリーアドレスとの違い

アクティビティ・ベースト・ワーキングについて語る前に、1980年代に日本に取り入れられ、現在では一般的になっている「フリーアドレス」について、おさらいしておきたいと思います。

フリーアドレスは、1970年代にマサチューセッツ工科大学のトーマス・J・アレンらが提唱した「ノン・テリトリアルオフィス」が起源といわれています。トーマス・J・アレンは、研究開発部門での生産性向上には、コミュニケーションや情報共有が重要な要素になっていることを突き止めました。そして、固定化されたデクスを持たない働き方が、通常のコミュニケーションと偶発的なコミュニケーションの促進につながるとし、その環境をノン・テリトリアルオフィスと名付けたのです。

このノン・テリトリアルオフィスが日本に取り入れられた当時は、デスクが固定化されないのであれば1人1席ではなく、例えば、不在時の在席率が50%なら、ある程度の余裕を見て80%程度確保すればよいという、「スペースの効率化を優先するフリーアドレス」として受け取られていました。しかしながら、スペース効率だけを目的とした考え方では、自席がなくなったワーカーの不満や収納の不足、結局、席が固定化されてしまうなどの問題によって運用が上手くいかず、元の固定席に戻す企業も多く見られました。

近年、コミュニケーションの重要性が認識され、またICTの進展も手伝い、ペーパーレス化、モバイルの普及などによって、働き方やオフィスを取り巻く環境が大きく変化したことに伴い、トーマス・J・アレンが提唱した、コミュニケーション促進を目的とする本来のノン・テリトリアルデスクに近い考え方のフリーアドレスが、再び導入されるようになってきました。

オーストラリアの電力会社AGLのメルボルンオフィス。約6,000坪のオフィスに約1,500名が勤務。大きくとられた吹き抜けと内部階段に加え、各所にさまざまなスペースが配置され、流動的で協業的な働き方を実現。
AGL Workplace by HASSELL. photography by Earl Carter
オーストラリア国内最大の保険会社Medibank。約14,000坪のオフィスに1,600名が在籍。ワーカーの心と身体の健康を中心に据えたアプローチによるワークプレイス。ABWをベースとしたネイバーフッドスタイル。
Medibank Place by HASSELL. photography by Earl Carter

アクティビティ・ベースト・ワーキングについて

今回、「アクティビティ・ベースト・ワーキング(以下、ABW)」を分かりやすくするために、やや強引ですが、上のグラフのように定義しました。

ABWは、もともとオランダで生まれたオフィス環境と言われています。国土が小さく、また少子高齢化の進むオランダでは「いかに生産性を高め、企業としての付加価値を生み出すか」「限られたオフィススペースの中で実現させる理想のオフィス環境はどのような形か」を模索し、その解として考えられたのがABWです。このようなオランダの環境は、現在の日本と非常に近いと思います。

ABWとは「ワーカーが自分の仕事の内容に合った適切な場所を自らが選択できる環境」のことを言います。つまり、デスクと会議室だけのオフィスではなく、集中するためのエリアやプロジェクトメンバーで集まりやすいブース、情報共有しやすいオープンミーティングエリア、カジュアルコミュニケーションができるカフェテリアなど、さまざまな機能が充実していることが重要なポイントです。そして、ABWを導入しているオランダの多くの企業では、ワーカーは自席を持たず、その多様な環境の中で自由に場所を選択しています。これを「ABW」と定義します。

オランダで生まれたABWは、現在では欧米を始めとする多くの国で見られるようになっています。シリコンバレーのTech系企業のキャンパス型オフィスでは、さまざまな機能が盛り込まれた環境をよく目にします。しかしながら、国土の大きなアメリカでは、ABWの考え方をベースとしながら、ワーカーに個別の専用席も提供しています。これを「ABW+専用席」と定義します。

「ABW」は、個人の生産性を向上させるには、非常に有効なオフィス環境です。一方で、個人のワークエリアが広がってしまうために、チームや組織としてのコミュニケーションが希薄になる恐れもあります。とくに大きなフロアプレートを利用する企業や、組織としてのコラボレーションを重要視する企業においては、これが大きな課題になってしまいます。そして、「ABW+専用席」では、自席の専用席周辺のコミュニケーションは促進されますが、席が完全に自由なABWよりコミュニケーションの幅は限定的となります。

そこで、オーストラリアにおいて、チームや組織としてのコミュニケーションが見直され、独自に進化を遂げたものが、グラフの「ネイバーフッド」です。こちらは、チームや組織などにより緩やかに業務エリアを決め、さらに個人のロッカーや組織の収納スペースをまとめることにより、コミュニティが形成できる範囲を定めています。運用は企業により多少異なりますが、その名が示すとおり、組織単位で緩やかにネイバーフッド(近隣)を決めるという考え方で、これは、「これからの働き方、ワークプレイスの在り方の選択肢として非常に有効な形」だと思います。ちなみに、ABWのさまざまな機能がなく、単に席の範囲を指定するのが「グループアドレス」と、ここでは定義しています。

「生産性向上につながるABW」を今回のタイトルとしましたが、ABWがどの企業、どの組織にも当てはまる正解とは限りません。重要なのは、「企業の経営戦略、経営目標を実現する理想の働き方」、そして「理想の働き方を実現する理想のオフィス環境を考えていくこと」です。もちろん、企業内でも働き方は一様ではなく、部署や職種によって個別に考える必要があり、ABWを取り入れる場合にも、企業にとって必要な機能を選定することが大切です。
今、働き方改革は多くの企業の関心どころだと思いますが、「企業に適した働く環境を見つけること」は、働き方改革の重要な要素になります。企業に合ったオフィス環境の整備が、多くの日本企業のさらなる生産性の向上につながっていくことを願ってやみません。

Offistyle+

vol.8

オーストラリアで、保守的な業界においても進んでいる「働き方変革」

2017年2月、オーストラリアを訪れ、約20ヵ所の民間企業オフィスを視察してきました。以前から、オーストラリアでは先進的な働き方を実践しているとは知っていましたが、実際に目にしたそれは想像以上でした。特に驚いたのは、金融・保険・不動産・法律事務所など、保守的と考えられている業種においても積極的に(日本から見ると?)先進的な取り組みが行われていること。今回は、その働き方・働く環境への取り組みについて、法律事務所を例にご紹介します。

シドニーの法律事務所。オフィス全体が立体的に見渡せ、人の動きが感じられる。みんながいつも視覚的につながることで、生産性やエンゲージメントも向上。

オーストラリアでは、GDPが20年以上連続してプラスとなっており、今後もしばらく経済成長は続くと考えられています。グローバルに活躍する企業が多く、もともと人口が少ないため海外から積極的に技能移民を受け入れ続けており、労働人口も増加傾向にあります。また、日本の2倍とされる最低賃金や従業員の権利、福利厚生を尊重した労働法により人件費が高いことに加え、都市部では商業用物件の家賃も高く、業種に関わらず企業には高い生産性が求められています。

そのような状況の中で先進的な取り組みをしている法律事務所を訪ね、オーストラリアにおける働き方は日本の数年先を行っているという印象を受けました。以前は9時−5時の定時勤務が普通でしたが、現在は場所と時間に縛られないフレキシブルな働き方が主流になりつつあります。在宅勤務は当然可能で、ペーパーレス化が進んでいるため、自席以外のライブラリーやカフェなど、どこでも働くことができます。日本でもワーク・ライフ・バランスが重視されつつあり、働き方の選択肢を与える企業が出てきていますが、オーストラリアではワーカーが働き方を主体的に選択することが普通になっているようでした。近い将来、日本でもこのような働き方がスタンダードになると思われます。

また特徴的だったのは、今回訪問した3つの法律事務所のいずれも、複数のフロアが階段や吹き抜けでつながっており、オフィス内の様子が立体的に見渡せる空間になっていたことです。設計当初は階段などのない普通のテナントビルでしたが、テナント企業経営者の強い要望により躯体形状の変更が実現されました。このような視覚的なつながりの影響は大きく、ワーカーの生産性や幸福度が向上しているという調査結果が出ているそうです。

ワーカー及び来客用のカフェテリア。
メイン動線となる階段脇にはコミュニケーションエリアを設け、ワーカー同士の出会いを増やす工夫がされている。

法律事務所のオフィスは、パートナー弁護士が窓側の個室にいて、その近くにアソシエイト弁護士、そしてパラリーガル、秘書が配置されるパターンが多く、特にパートナー弁護士の個室は情報の秘匿性や権威的な意味?からも配置されていることがほとんどです。しかし、今回訪れた法律事務所にパートナーの個室は1つもなく、同じ形状の執務デスクが並ぶオープンでフラットな印象でした。オーストラリアの法律事務所ではオープンなオフィスが珍しくなく、最近増えてきているようです。また、一部のオフィスでは、自分の固定席のないABW(Activity Based Working)も試験的に取り入れられていました。さらに、従来は執務室、会議室や書庫によってほとんどの面積が占められていましたが、現在はオープンなミーティングスペースやカフェテリアを始めとしたコミュニケーションスペースなど、共有スペースが増加する傾向にあります。

そのような変化の背景には、法律事務所の仕事内容が複雑化し、個人やチームの専門領域を超えて連携しないと対応できないような案件が増えてきているという事情があります。今後そのような複雑な案件の比率はもっと上がると予測され、生産性を上げるために、チームや部門をまたいだコミュニケーションがますます重要視されています。このような仕事の質の変化は世界共通のものであり、数年後の日本の働き方・働く環境も、今とは大きく変わっているのではないでしょうか。

会議室だけでなく、オープンなミーティングスペースも増えている。
スピーディーに問題解決をするため、アシスタントから経営トップまでが同じ空間に共存。
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