オフィーチェ

新しいワークスタイルを発信する【オフィーチェ】

三井デザインテック
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Future Articles

vol.7

Office for evolution

株式会社Razest

スマホ向けソーシャルゲームの開発で急成長している株式会社Razestが
さらなる増員と事業拡大を見据えて本社を移転した。
コンセプトは「進化のためのオフィス」。
ほとんどの社員が20代、30代という若さと勢いにあふれる同社らしい
遊び心にあふれた、表情豊かなオフィス空間となっている。

初めて3DになったRAZE LIONがエントランスでお客さまを出迎える。「オフィスのフォトスポットを必ず用意するようにしています。そこで写真を撮ってInstagramやTwitterに上げてもらえれば、認知度アップにも繋がります」(横川氏)

株式会社Razestは、大阪を拠点とするスマホ向けソーシャルゲームの企画・開発・運営会社として、創立当初からオリジナルゲームや新しい企画を次々と打ち出し、急成長してきた。そして、2015年9月、社員数の増加や今後の発展のために約5倍の広さとなるオフィスへ移転。これまでに築いてきた企業風土を大切にしつつ、より飛躍するためのオフィスが完成した。

移転にあたってRazestが求めたのは、既存の作品イメージに縛られず、さらに幅広く仕事をするためのオフィス。現在はデザイナーを中心とした少数精鋭の企業だが、会社も社員もより成長できるような場にしたいという思いがあった。

そこで、三井デザインテックは「進化のためのオフィス」をコンセプトに掲げた。デザインを担当した横川氏によると、デザインのポイントは大きく2点。「クリエイティブな会社の場合、一般的にはクリエイターがいかに心地よく過ごせるかを考えますが、今回のプロジェクトでは社外へのアピールも重視しました。会社の成長にあたって新入社員を採用していくことになりますが、その際に、オフィス自体がアピール材料になるようにするためです。同時に、社員数が増えることでスタッフの一体感が薄れてしまわないよう、社風でもある社員同士の繋がりを大切にできるようにしました。社員のほとんどが20代、30代というフレッシュな会社だけに、工事途中のような部分をわざと設けて、『これから頑張ってつくっていこう』という雰囲気にしました」と言う。

仕事に役立つ資料や最新の書籍が並ぶ図書館。天井までの高さを存分に使った本棚は収納力抜群。外部の視線もゆるやかに遮断してくれるので落ち着いて過ごせる。
社員全員が集まって食事を楽しむダイニング。「ダイニングテーブル上のペンダントは、立って前かがみになってもギリギリ当たらない高さを検証して吊り下げました」(菅氏) 

そうして生まれたのが、エレベーターホールと受付を結ぶ長い廊下のミュージアム、ボードゲームを楽しむためのこたつスペースといった特徴的な空間だ。そして、これらのスペースにはRazest社員の意見も盛り込まれているという。「今回の移転プロジェクトではワークショップを3回開催し、社員の方々と意見交換をしました。会社の将来を踏まえ、『どのようなオフィスを望むのか』『オフィスに必要なものはなにか』を出してもらい、そのアイデアも盛り込んでいます。それと、社員全員で現場見学会に参加していただきました。それらを通して、一緒につくっていると感じられたのが嬉しかったですね」と、営業担当の河村氏は言う。横川氏も同じように感じていたようで、「クライアントとの距離が近かったのが一番よかったです。社長直々に想いを伝えてくださるので分かりやすかったですし、その熱意に応えるためにも倍にして返さなければと思っていました。そのやり取り自体が楽しく、有意義でした」と話してくれた。

さらに施工現場においても一体感があったようだ。施工を担当した菅氏は「限られた時間、高層ビル内の制限が多い室内でしたので難しい面もありましたが、設計はもとより、現場で作業する全業者さんが協力してくださったので、満足できる内装に仕上がったと思います」と振り返る。

こうして完成したオフィスは、第29回日経ニューオフィス賞にて近畿ニューオフィス奨励賞を受賞。よい空間をつくり上げた満足感に、驚きと喜びが加わる結果となった。

「ボードゲームに本質がある」との考えから、社員でゲームを囲むことが多いそう。そこで専用のスペースを用意。「ボードゲームは家でまったりしている時にやることが多いと思うので、その雰囲気が出せるように和の設えにして、堀ごたつを置きました」(横川氏)
ガーデンを意識したコミュニケーションスペースにはシンボルツリーを置いた。奥に見えるモニターは社内のアイデンティティーを表現する仕掛けの一つ。社員旅行や社内イベントの写真がスライドショーで流れている。
左から)河村直廣氏、横川順子氏、菅英敏氏

New Relationships

vol.7

世界の最新情報からオフィス・トレンドを探る

ワークプレイス「8つのポイント」
協業が生まれやすいオープンなオフィス。内部階段を設けることで、より協業しやすい環境となります。
〈写真協力:Steelcase〉 ※写真A

急激なスピードでマーケットが変化している現在、企業には「生産性の向上」に加え、「差別優位性の確立」が必要となり、新しい発想や新たな価値を生み出すためにも、よりクリエイティブかつスピーディーに働くことが重要視されてきています。

そこで今号では、新しい働き方を実現するためのワークプレイス「8つのポイント」をご紹介いたします。

Point1 〔Open Office〕
オープンオフィス

1つ目のポイントは「オープンオフィス」です。企業における仕事の仕方は、ヒエラルキーの単独組織の中で完結する従来型から、組織を横断して相互に連携しながらタスクを遂行する形へと変化してきています。この傾向は今後5年間でさらに高まり、組織はフラット化し、定形型の業務から非定形で柔軟な業務へ移行していくと言われています。そのためには、組織に縛られずワーカー同士が相互に連携できるオープンなオフィス環境が必要となっていきます。(写真A)

Point2 〔Collaboration Space〕
コラボレーション空間

アメリカでは、コラボレーションスペースのオフィスに占める割合は平均60%で、今後さらに増加すると言われています。一方、日本ではコラボレーションスペースは平均40%とアメリカとは大きな差が生じており、残念ながら多くの企業では、自席や会議室など限定された場所でしかコラボレーションが行えていません。前述のとおり、日本でも組織を超えた協業が増加すると、コラボレーションの機会はさらに増すと思われます。また、世代や国籍など多様なワークスタイル、ライフスタイルを持つワーカーがコラボレーションを行うためには、ベースとなる人間関係を醸成しておくことも大切です。そのことからも、日常的にコミュニケーションが取れるカフェやプレイルームなどのアメニティスペースを設けることも有効です。「さまざまなシチュエーションに合ったコラボレーションできるスペース、打ち合わせなどにも兼用できるカフェテリアなどのアメニティスペースの充実」が、これからのオフィスに必要なポイントです。(写真B)

Point3〔Focus & Private〕
集中とプライベートの確保

コミュニケーション手段が多様化している現代において、ワーカーは集中する環境を確保しにくくなっています。コラボレーションは大切ですが、同時に、一人で作業に集中したり、知識や情報を蓄えたりすることも重要です。コラボレーション後に、自分自身で整理したり、考えたりするためにも、「コラボレーション環境と集中できる環境をバランスよくオフィスに取り入れる」ことは大切です。(写真C)

Point4 〔Flexibility〕
フレキシブルな選択

フレキシブルには、2つの要素があります。1つ目は「ワーカーがフレキシブルに働く環境を選択できる」ことです。オフィスワーカーの1日の仕事は多岐に渡り、デスクでの個人ワークもあれば、フォーマルな会議、ディスカッション、TV会議やインフォーマルなコミュニケーション、集中作業など、さまざまなモードがあります。ワーカーの業務内容に合わせて適切な場所をフレキシブルに選択できることは、生産性向上と同時にワーカーの満足度の向上にも繋がります。また、環境を変えることで偶発的な出会いやインスピレーションのキッカケも期待できます。
2つ目は「可変性のあるフレキシブルな空間である」ことです。オフィスワーカーのコラボレーションは即興的に行われ、求められるシチュエーションも変化します。そのため、ワークプレイスも特定の目的に限定せず、複数の目的に使用できる可変性のあるフレキシブルな空間であることも重要です。(写真D)

最近増加しているビッグテーブルでは、同時に複数のコラボレーションが行われます。〈写真協力:Steelcase/Coalesse〉 ※写真B

Point5 〔Well-Being〕
ワーカーの幸福と健康

ワーカーの幸福と健康が、企業の実績に大きな影響を与えていることが明らかになってきています。Well-Being(ウェルビーイング ※詳細は次ページ参照)は、身体面、精神・心理面が大きな要素となっており、身体面では「働く場所と姿勢が自由に選択できる」ことが求められます。フレキシブルに場所を選択できるオフィスであれば、自然とオフィス内を動き、姿勢が変わるでしょう。また、精神・心理面では「ワーカー同士の相互交流」が大切となります。例えば「社員のプロフィール(写真や現状の仕事、特技など)や、サンクスカード(仕事で助けられた感謝の気持ち)を壁面に展示し、共有する」など、企業の風土や文化に合わせた相互交流を促すオフィス内での取り組みもみられます。ワーカーが幸福・健康であることは、なによりも重要なベースといえます。

Point6 〔Personalization〕
ワーカー個人の尊重

オフィスでは機能性のみならず、ワーカー一人ひとりを尊重し、また自立できる環境と仕組みを整えていくことも重要です。例えば、長時間自席で仕事をする人と、外出や打ち合わせが多い人のオフィス環境を変えたり、個人の都合に合わせて働き方の選択(時間や場所)ができる制度を導入したり、あるいはオフィス内で個人やチームの自己表現の場を提供する企業もあります。今号で取り上げたAirbnb(※次ページ参照)も、さまざまな仕組み・環境づくりに取り組む企業の一つです。人はストレスを感じた時に創造性と発想力が低下します。アイデアを生み出すことはイノベーションの生命線です。ワーカーが最大のパフォーマンスを発揮するためにも「気持ちよく働ける環境整備や仕組みづくり」は大切なポイントです。

Point7 〔Corporate Identity〕
企業文化の発信

ワークプレイスを通じて、企業メッセージを従業員や投資家などのステークホルダーに伝えていく企業も増加しています。特に、急激に成長している企業では、その生い立ちや過去の成長へのプロセスが社員に十分に浸透していないケースもあります。また、多くの企業では人材の確保が経営の重要課題でもあるため、リクルーティングの目的も兼ねて企業メッセージやブランディングをオフィスの場を通じて発信する企業も増加しています。

Point8 〔Socialization〕
社外との繋がり

社内のリソースだけではイノベーションには限界があります。そのため、クライアント、パートナーなど外部との協業、あるいは近隣・社会との「繋がりの場を自社のオフィス内に設ける」企業が少しずつ見られるようになっています。外部の知見との新結合や新たな知識創造のためには、今後さらに、より自由で、より深く繋がれる環境や仕組みが求められていくでしょう。具体的には、オフィスの一部をコワーキングスペース的に開放するケースや、取り引き先に自由に活用してもらう場として打ち合わせスペースを提供するなどの取り組みです。オフィスを社員や特定の来訪者だけの場ではなく、対象を広げて活用することにより、今までにない新たな繋がりや発見を生み出すことになるでしょう。

今後のオフィスに求められるのは、協業しやすいオープンな環境にコラボレーションスペースと集中できるスペースをバランスよく取り入れ、ワーカーはフレキシブルに場所を選択し、また空間自体も固定的、限定的でないフレキシブルさをもっていることです。さらには、ワーカーが幸福に働ける環境が整い、企業はワーカー個人を尊重するとともに、企業アイデンティティーを社内外に発信し、そのオフィス自体が社会との繋がりを大切にしていく、そんなオフィスに変化していくと考えられます。

ただし、8つの要素すべてがどの企業にも向いているとは思いませんし、プライオリティも同一ではありません。企業の生い立ちや文化、事業内容、さらに働き方に合ったオフィスの形とその使い方を考えることが重要です。

集中エリアをオフィスにバランスよく配置することも大切。〈写真協力:Steelcase〉 ※写真C
さまざまなスタイルで仕事が行えるActivity Based Working。〈写真協力:HermanMiller〉 ※写真D

Offistyle+

vol.7

AirbnbのポートランドオフィスでWell-beingな働き方に出会う。

Airbnb(エアビーアンドビー)は世界中のユニークな宿泊施設をネットや携帯、タブレットで掲載・発見・予約できる信頼性の高いコミュニティー・マーケットプレイスを運営している企業。2008 年8 月に創業し、カリフォルニア州サンフランシスコに本社を構えています。今回は、同社が2014 年にオレゴン州ポートランドにオープンしたカスタマー・エクスペリエンス・センター(お客様相談センター)を訪問させていただく機会に恵まれました。

「Well-being(ウェルビーイング)」
直訳は「幸福」を表すが、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念としての意も。1946 年の世界保健機関(WHO)憲章草案において、「健康」を定義する記述の中で「良好な状態(well-being)」として用いられた。

集中作業に適したブース型のワークスペース。手前は個人用ロッカーとスタンディングワークが可能なカウンターが合体したオリジナルデザインの家具。

350名以上のワーカーが働くこの場所は、ワーカーとリードデザイナーたちとのコラボレーションによるもので、Well-being な働き方が実現できるオフィスとしてデザインされています。コンセプトは、「Belong Anywhere.(どこにでも居場所がある)」というAirbnb の哲学を踏襲した「働くための多様な環境があり、開放的でフレキシブルなワークプレイス」。一日の仕事を行ううえで、立つ、座る、寛ぐという3つの姿勢を仕事の内容や体調などに合わせて自由に選べるようデザインされています。このような、固定のデスクに一日中縛られることなく、仕事の内容や求める成果、チームやコラボレーション相手などに応じて適した場所を都度選択するワークスタイルを彼らは「Belong Anywhere Design」と呼んでいました。姿勢や環境を変えながら仕事をすること、その選択肢を個人が持つことは身体的にも精神的にも良いですし、仕事の成果や効率にもプラスの影響があります。

イベントで利用した屋台を活用してデザインされた待合コーナー。
遊牧民の移動式住居「ゲル」をイメージしたデザインで緩やかに囲われた空間。
レンガの壁には従業員のポートレートがディスプレーされている。このようなディスプレーは社内の随所にセンスよく配置されている。
家具のほとんどはこのオフィスのためにデザインされ、地元企業によって制作されたもの。クラフト感あふれるデザインがDIYの盛んなポートランド的。

また、Airbnb らしいWell-being なオフィスの特徴は、インテリアデザインにも表れています。全体の構成は、煉瓦や木材など温かみのある素材を中心としながら、地元ポートランドの企業によるクラフト感あふれる家具を効果的に採用。オフィス内の随所にディスプレーされている小物やアートワークにも各々に意味やストーリーがあり、社員同士のコミュニケーションやパーソナリティーの表現なども受け入れられる仕組み、企業風土が存在します。会議室などは部屋ごとにテーマ性を持たせたデザインで、ワーカーを中心としたデザインチームによってセンスよくコーディネートされていました。

実際にワーカーのみなさんが働いている様子を体感し、この環境に幸福感を持ち、誇りを持って仕事をされているように感じました。自分たちの働く環境を自分たちで考え、運営できていることが理想的なワークスタイルの実現を支えている要素の一つと言えそうです。

可動式の家具で広い空間をフレキシブルに活用。もちろん一人で仕事をすることも可能。
ワーカーがデザインした巨大な空想動物がディスプレーされたコミュニケーションエリア。メッセージカードなどアナログな交流にもこだわりと工夫を感じる。
キッチンでは専門のスタッフによる地元の食材を使った健康的な食事が提供されている。
海をテーマとした会議室。隅々までデザインが行き届いている。
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