オフィーチェ

新しいワークスタイルを発信する【オフィーチェ】

三井デザインテック
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Future Articles

vol.10

株式会社ユーグレナ 移転プロジェクト

企業の成長とともにオフィス空間に求めるものはどう変わるのか?

本誌Vol.05で紹介した、株式会社ユーグレナが再び移転することとなった。
新築のオフィスビル「G-BASE 田町」に完成したのは、同社の主軸である「サイエンス」を感じさせる空間。
企業の成長とともにオフィス空間に求めるものはどう変わるのか?
前回から進化した点、変わらず大切にしている点など、新しいオフィスの全貌を紹介する。

ユーグレナやグループ企業の活動を紹介する展示スペース。ミュージアムの展示コーナーのような中央のデスクにはラボをイメージさせる品々が置かれ、顕微鏡をのぞくと会社案内が見られるといった遊び心も。「来客ゾーンのテーマそのままに、大学の理学部のラボをイメージしました。大切なのはコンテンツを見せることなので、余計なデザインをせずシンプルに仕上げています」と三浦氏。

株式会社ユーグレナが新しいオフィスに移ることになり、2015年に続き、再び三井デザインテックがプロジェクトを担当した。

前回のプロジェクトは企業戦略やPRをサポートする企業との共同作業という新しい試みではあったが、「おもしろいことにチャレンジしたい」というメンバーの思いが形になり、各方面から好評を得た。

それから約3年、ユーグレナの事業は拡大し続けている。それに伴いオフィスも広さが必要で、今回はグループ企業も入居することから、2フロア・総面積は約1.7倍まで拡大した。

しかも、建設が進められている新築ビルへの移転とあって、そちらの工事と内装が同時に進められることになる。営業担当の相庭氏は「新築工事を担当しているゼネコンは、それだけでも手一杯の中で内装工事の対応もするわけですから、とても大変です。弊社から依頼した内装工事だけみても通常の倍近い期間が必要になってくる。それだけに調整やスケジュール管理は難しかったですね」と話す。徹底した進捗管理については、ユーグレナが最初に挙げた2つの要望の1つだっただけにプレッシャーも大きかった。

そして、もう1つの要望がコンセプトをしっかり立ててオフィスづくりをすることだった。デザイン担当の三浦氏は「先方の担当者も一緒にコンセプトを考えたいとのことでしたのでワークショップを行いました。オフィス環境が変わる中でどのような働き方を目指していくのかなどをセッションし、コンセプトやゾーニングを決めていったのですが、前回導入した執務ゾーン内のコミュニケーションエリアの評価が高く、その考え方は生かしたいと言われました」と経緯を話す。

3階にある集中エリア。「2階と3階に人の流れをつくりたかったので、2階にない機能をつくりました。気分を変えたい時に使ってもらえるよう、照明を少し暗くして集中しやすいようにしています」と三浦氏。
2階のカフェの横にある「ゆーぐりん保育園」。会社が成長していく中で、子育て世代が増えてきていることから、移転に伴い併設した。こちらも多様なワークスタイルの実現に向けた取り組みの1つ。
左から)三浦圭太氏、相庭武瑠氏

フロア構成は、2階が執務ゾーン、3階が来客ゾーンとなっている。それぞれにテーマがあり、執務ゾーンは「アカデミア」。業務によって固定席とフリーアドレスが選べ、フォーカスルームも設けられている。コミュニケーションの活性化に役立つカフェスペースは食事やリラックスするのはもちろん、仕事ができる設備も整え、フロア全体で多様なワークスタイルに対応できるようにした。さらにユーグレナ初の企業内保育園「ゆーぐりん保育園」も併設している。

一方、「ラボ」をテーマにした来客ゾーンは研究室をイメージしたつくりで、エントランスはユーグレナに関連する情報にふれられる展示ゾーンとなっている。他に、コワーキングスペースやミーティングルームなどを設けた。

相庭氏によると「コワーキングスペースは関連の外部の方も使用できます。コワーキングスペースで働いて、ミーティングルームで打ち合わせをして、またコワーキングスペースへ……というような、スピーディーな働き方をイメージしていて、外部の方を積極的に受け入れたいという強い思いが伝わってきました」とのこと。実際に自身も利用させてもらったが、とても快適だったそうだ。

前回のプロジェクトにも参加していた三浦氏は、今回の移転プロジェクトを振り返り、「前回はやりたいことを一生懸命やるという印象で、ベンチャースピリットを感じましたし、オフィスもユーグレナという企業を伝える“メディアとしてのオフィス”という側面が強かった。今回は、企業としての包容力をつけたいという思いもお持ちで、さまざまな人を受け入れる“器としてのオフィス”を目指しているのが大きく変化した点ですね。2回の移転プロジェクトを担当させてもらったことで、オフィススペースの提案によって、企業の成長をお手伝いできていると実感できました」と話す。

社内外の調整に追われた相庭氏は「良かったところは、良好な人間関係が築けたことです。タイトなスケジュールの中、最初から最後まで一緒につくりあげることができて、最後は『御社に頼んで本当に良かったです』と言っていただけました。頑張ったかいがあったと思います」と笑う。

オフィス空間の提案が企業の生産性向上、成長・発展に寄与することが実感できた今回の移転プロジェクト。これは、今後のオフィスの在り方を考える好事例の1つになったといえるだろう。

ナチュラルな雰囲気の中にグリーンを差し色にした執務ゾーン。フリーアドレスエリアは人が行き交い、コミュニケーションが生まれやすいようにレイアウトを工夫。コーナーによって机や椅子の高さが違い、仕事のモードに合わせて使い分けられる。
リラックスして過ごせることを第一にデザインしたカフェ。形や素材の違うソファ、高さの異なるテーブルを配置し、食事、仕事、気分転換など目的に応じて楽しめる。朝と夜には軽食も提供しているそう。

New Relationships

vol.10

世界の最新情報からオフィス・トレンドを探る

フィンランド・デンマークの働き方

2018年3月に発表された世界幸福度ランキング。結果は、1位フィンランド、2位ノルウェー、3位デンマークでした。その発表があったまさに3月にフィンランド、デンマークを訪れました。両国は幸福度もさることながら、OECD(経済協力開発機構)の労働生産性の国際比較でも常に上位に位置しています。
ちなみに日本は、幸福度ランキングが54位(156カ国のうち)、労働生産性が20位(加盟国35カ国のうち:2017年版)となっており、北欧諸国とは大きな差があります。
そこで今号では、「幸福度・生産性ともに高いフィンランド、デンマークでは、どのようなワークプレイスで、どのような働き方をしているのか?」をみていくことにします。多くの企業が働き方改革に取り組んでいる日本において、参考になる点も多いのではないかと思います。

大手建設コンサルティング会社RambollのHQオフィス。透明性と知識の共有を重要視したワークプレイス。

高い幸福度の背景にあるワークライフバランスの定着

まず、フィンランド、デンマークに共通する特徴として、労働時間の短さが挙げられます。週の労働時間は、フィンランドが約40時間、労働組合の強いデンマークでは一般的に37時間で、実際の平均労働時間は33時間とも言われています。また、労働市場においては、ともに人材の流動性が高く、転職は一般的。とくにデンマークでは、失業しても失業前の賃金の90%が最大4年間も支給されます。税金が高い一方で社会福祉がしっかりしており、医療費、出産費、大学院までの学費は無料と、金銭的な心配をしなくとも自分が学びたいこと、自分が働きたいことに向き合える環境が整っているようです。
また、企業により当然差はありますが、一般的にワーカーに与えられる裁量の幅は大きく、組織環境もフラットだと言われています。仕事の対価も労働時間に対するものではなく、成果やアイデアが重要視され、自らが考え、能動的に働く姿勢がみられます。そのため、時間を掛けるのではなく、効率的に短時間で良い成果を出す働き方をしています。

また、ワークライフバランスを取ることは当たり前で、プライベートの充実により、新しいアイデアや知識、また意欲の向上に繋がると明確に理解していることが、ワークスタイルに表れています。

最近話題になっているデンマークの「Hygge(ヒュッゲ)」という言葉。デンマークでは感覚的な価値観であり、人により言葉の捉え方も少しずつ異なるため、正確に伝えることは難しいのですが、「ただただリラックスした普通の日常や自然に触れる時間を意識してつくり、そこに幸せを見いだすという生活の知恵のようなもの」と言われています。長く厳しい冬を過ごす北欧では、厳しい自然の中で芽生える息吹や暖かな日差し、また、人の優しさや気の置けない人と過ごす時間、その一つひとつを大切にしているのではないでしょうか。そこから、仕事だけでなく私生活を大切にする文化がしっかり根づき、ワークライフバランスがとれた高い幸福度に繋がっているようにも思います。

46,000㎡、2,000名が働くRambollのオフィスでもABWを採用している。〈写真協力:Ramboll〉

行政主導で普及を促進生産性の向上に寄与するABW

本誌のVol.08でご紹介した「アクティビティ・ベースト・ワーキング(以下、ABW)」という働き方は1990年代にオランダから始まり、ヨーロッパ諸国に広がったと言われています。ABWについては以前詳しくお伝えしましたので、ここでは簡単に「自分のその時の仕事に合わせて最適な環境を選択できる働き方」と定義しておきます。このABWは、フィンランドでも10年以上前から取り入れられていますが、近年では行政が主導となりさらに広く普及させる戦略が取られています。現在、行政機関ではすでに約3分の1に導入され、今後2020年までにはすべての行政機関においてABWを取り入れることが計画されています。具体的にフィンランド国立労働衛生研究所(Finnish Institute of Occupational Health)でのABWの研究や、行政機関の不動産戦略機構(Senate Properties)における働き方改革のコンサルティングも実施されています。

ABW導入の目的は大きく2つあり、1つは「ABWを取り入れることによるワークプレイスの面積減少です。現在、フィンランドのABWを取り入れていない行政機関の1人当たりの平均床面積は34㎡と、日本の倍以上の面積(東京23区:12.5㎡ ザイマックス不動産総合研究所「1人あたりオフィス面積調査(2017年)」より)となります。それを15㎡へと減少させ、行政のコスト負担を減らすことが目的です。2つ目は「ワーカー間のコラボレーションの促進」です。これは、ABWによりワーカーの働き方に流動性が生まれ、組織間あるいは組織内のワーカーのコラボレーションが活発となり、新たなイノベーションに繋がることを狙っています。つまり、2つの目的は生産性の向上に寄与しており、当然、この行政の動きは民間企業にも大きな影響を与えています。

では両国ではどのようなワークプレイスで働いているのでしょうか? 写真の通り、非常にクリエイティブなワークプレイスを多くみることができます。 中央にある吹き抜けを中心に内部階段で平面空間が接続され、吹き抜けを囲むように執務スペースが配置されています。先に述べた通り、日照時間が短い冬においても室内で快適に働けるよう、大きな吹き抜けがワークプレイス全体に自然光を届けています。Well-Beingに対する企業の意識は非常に高く、執務空間も自然光がたっぷり入るように窓を大きく取り、窓の近くにワークステーションが配置されています。また、ワーカーの生産性が高められるように、集中ブースや電話ブース、居心地の良いカフェテリアなど多くの機能と十分なスペースが取られています。開かれたワークプレイスでは多くのコラボレーションが随所で行われ、生産性の高い働き方の実現に繋がっています。

働き方を見直すうえで重視したい個人の“自律”と企業の“働きかけ”

フィンランド、デンマークには真面目で勤勉、そしてシャイな人が多いと言われ、日本人の人間性と似ています。両国では多くの人が充実した人生の過ごし方を身に着け、そして働くことへの価値観と自分自身のアイデンティティーを明確に持ち、企業に属しながらも「しっかりと自律したスタンス」で働いているように感じます。それが、高い幸福度と生産性に繋がっており、そこには日本の企業が働き方を見直すうえで学ぶべき大切なことがあるように思います。

働き方改革は企業からの発信だけでなく、ワーカー個々人が“自分事”として捉え、自律した働き方へと繋げていくことが重要です。
そして同時に、企業がそのような働きかけを行うことが成功の大きな鍵になるのではないでしょうか。

アパレルのBESTSELLER。ワークプレイスの宣伝効果により、人材確保に繋げる。〈写真協力:BESTSELLER〉
デンマーク国営放送。個人スペースを減らし、パブリックスペースを充実させている。〈写真協力:Danish Broadcasting〉
Nordea Bankのオフィス。LEEDプラチナ認証。吹き抜けが空間を繋ぐ。〈写真協力:Nordea〉

Offistyle+

vol.10

脱企業型(un-corporata)ワークプレイス

〔翻訳:カルダー・コンサルタンツ・ジャパン株式会社 代表取締役 奥錬太郎〕
床・壁・天井の仕上げも未加工なデザインを上手く活用

長い人類の試みの歴史において、企業のワークプレイスはごく最近の発明だ。人類は建物を約6,000年前につくり出しているが、ことオフィスビルに関しては、まだ100年ほどの歴史しかない。オフィスビルのデザイン言語の発祥は、ニューヨークのシーグラムビルに代表される、ミース・ファン・デル・ローエを中心とするシカゴ派にさかのぼる。当時の技術の粋を集結したこれらのビルには、エレベーター、空調、鉄とガラス、そして革新的な資金調達方法が用いられ、今日「コーポレートワークプレイス」と呼ばれている新しいビルのモデルはこの時につくり出されたといえる。その際同時に生まれたのが、ハイスペックビルの開発、所有、投資、維持管理といった活動から収益を発生させる不動産業界だ。これらのビルの形態は、階層的な組織構造を持つ大型の企業を収容することに長けていた。技術を結集し、部署を整然と効率的に縦に積み上げていったのである。

このようなビルの内部は、大概どこでも似たような進化を見せ、スペースが「正しく」システマティックに配置されていった。個室オフィスとオープンプランの組み合わせはすべてモジュラー化され、使用者の役職に合わせて隙間なく並べられることとなる。そして、企業ブランドと価値は、インテリアデザインとして統合的に表現され、他の企業や社会の目に留まるようになっていった。

不動産会社はスペースをつくって貸し、建築家はビルをデザインし、インテリアデザイナーは内装を施工し、家具メーカーは執務環境を設え、そしてファシリティマネジャーは建物を維持管理した。1970年までには、コーポレートワークプレイスの進化は完了したと見なされるようになった。

コンピューターが最初にコーポレートオフィスに現れた時には、大型汎用コンピューターであった。1984年にIBMのパーソナルコンピューターがオフィスに導入され始めた。1990年代半ばにはコンピューターはすべてのデスクに置かれた。そして2000年には、テクノロジーの進展により、人がデスク以外の場所でも仕事ができるようになり、世界で最初のActivity Based Working環境がつくられた。この一連の変化を経た後でも、ワークプレイスは「コーポレート」なままであった。

意識的に脱企業型のオフィスを構築してきた、とくにGoogle、Facebook、Atlassian社といったテクノロジー企業の成長が、これまでのコーポレート型のオフィスモデルの在り方を危うくしている。新しい血統を持つテクノロジー系の起業家は、古いタイプの企業のことを、のろまで時代遅れで、ミレニアル世代のカスタマーからの関心をまったく得られていないと見ている。新しい時代の起業家たちは、いにしえのフォーブス500企業がつくった世界よりも、より良い世界を創出しようという高い志を持っている。彼らは古いコーポレートワークプレイスに身を置きたくないと考え、もはや、企業と見なされたくないとさえ考えている。彼らはスーツを着ない。チームの組織はフラットでオープンなワーク文化を持っている。オフィスの冷蔵庫にはビールがあり、社員の飼っている犬が歩き回っている。彼らは仕事を楽しんでいさえする。

古いコーポレート型ワークプレイスは、ほぼすべての面で、ニューテクノロジー産業のテナントにはふさわしくないといえる。

社員が思い思いに集まるカジュアルな雰囲気のクラブスペース
もちろん仕事もOK
脱コーポレート化には、ハードだけでなく、チームマネジメントの方法も非管理型の信頼ベースのものへと変化する必要がある


【古いコーポレート型ワークプレイスとは?】

都心のビジネス街は、バーやカフェ、イベント、ストリート文化という点で、周辺の繁華街と比べると多様性で劣っている。
味気ない荒涼とした見た目。一方、質感の良い、面白みのある古い倉庫のような建物は、テック系企業が手を加えるのに最適である。
天井が低すぎる。
共用部がブランドのすべて。
コストが高すぎる。
他のテナントが堅苦しく、退屈で古い企業で、いつもスーツにネクタイをしている。
空調や使用されている建材が健康を配慮していない。
ビルのサービスが24時間体制になっていない。
テナントが犬を連れて行くことをビルオーナーが許可しない。
内装がアジャイルチームをサポートしていない。
(チームのスピーディーな変化に対応できない)


成長しているテック企業は一般的に古いコーポレートオフィスを避ける傾向がある。実際、倉庫や文化財的な(国際化する以前の時代の)古いオフィスにプレミアムが支払われている都市もある。新しいタイプの組織では、常に構成を変化させながらクリエイティブな成果を出す小さいアジャイルなチームがハードかつ速く仕事ができるようになっている。そのようなチームでは、古いタイプのプロセスワーク(定型的な業務)はもはや存在しないのだ。

したがって、テック系企業の新しいオフィスデザインからコーポレート型の内装が消えてしまうことは明らかだ。インテリアデザイン業界はいち早くこの変化に対応している。ファシリティチームは顧客志向を強化し、カルチャーの充実にフォーカスした、より良いユーザー体験を提供する方向にシフトしてきているのである。もし不動産業界も、ニューエコノミーに対応して進化を遂げようとするならば、オフィスビルの在り方を再定義する良いタイミングであるといえるだろう。

重厚な雰囲気とは無縁の受付エリア
天井の配管が剥き出しの仕上げは、オフィスの雰囲気を脱コーポレート化させるために効果的
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